食事はエネルギーであり、娯楽である
ちょっと疲れているときや気分が晴れないとき、おいしいものを食べて元気が出た経験はないだろうか。サッカー代理人の龍後昌弥氏自身、メンタル面でも食事をエネルギー源にしている一人だ。おいしいものに目がなく、出張のときは道中でどこがいいレストランなのかを調べて、そこに寄るのが密かな楽しみになっている。
食事がリフレッシュになるのは、選手も同じだ。塩貝健人選手がオランダのNECナイメヘンに移籍して1カ月くらい経ったときのこと。塩貝選手がホームシック気味になっているのを感じて、都築拓真シェフを連れて遊びに行くことにした。
当時、都築シェフは「スポーツ360」に勤務しており、その日は休日だった。本来であればゆっくり過ごしたかったと思うが、休日返上で同行してくれた。都築シェフは食材の買い出しにすごくこだわっており、毎回4、5軒回って食材をそろえるため、それだけで2、3時間かかる。さらに、選手の家ですぐに食事を提供できるように、事前に仕込みをしておく必要もある。
相当な労力だが、都築シェフ自身も20歳前後でフランスに渡ったときにホームシックを感じた経験があり、「塩貝選手の気持ちがすごくわかる。ぜひ元気づけたい」と賛同してくれた。ちなみに「スポーツ360」があるケルンから塩貝選手がいるナイメヘンまで約160km。車で2時間ほどの距離で、1年間に7万km走る龍後氏にとっては近場だという。
クラブハウスに炊飯器を
龍後氏は、塩貝選手のホームシック対策として、クラブハウスに炊飯器を設置するよう提案した。日本人選手にとってご飯は欠かせないものであり、慣れない環境での食事がメンタルに与える影響は大きい。実際、塩貝選手は日本食を恋しがっており、都築シェフの手料理で元気を取り戻したという。
龍後氏は「食事はエネルギーであり、娯楽でもある」と語る。欧州で戦う日本人選手にとって、食事環境を整えることはパフォーマンス向上に直結する。クラブ側も理解を示し、炊飯器の設置が実現した。
代理人と選手を超えた関係性
龍後氏と塩貝選手の関係は、単なる代理人と選手の枠を超えている。龍後氏は「共に戦う姿勢」を重視しており、選手のメンタルケアにも積極的に関わる。塩貝選手がホームシックになった際も、龍後氏は自ら足を運び、都築シェフを連れて行くなど、手厚いサポートを行った。
龍後氏はドイツ最大手の代理人事務所で活躍する数少ない日本人エージェントの一人。これまで多くの日本人選手を欧州へ導いてきた。著書『最強の代理人 欧州最前線の代理人が日本サッカーを強くする』では、知られざる代理人業界の内幕と、熾烈なビジネスの現実を明かしている。
フラフラになりながら示した「共に戦う姿勢」
塩貝選手は、移籍直後からチームに溶け込むために努力を重ねた。しかし、言葉の壁や文化の違いに戸惑い、ホームシックに陥った。そんな中、龍後氏と都築シェフの訪問が大きな励みになったという。
龍後氏は「フラフラになりながらも、塩貝選手は練習に励んでいた。その姿を見て、自分も全力でサポートしようと決意した」と振り返る。この「共に戦う姿勢」が、後に大逆転劇を生むことになる。
名門から奪った2ゴール
塩貝選手は、オランダの名門クラブとの試合で2ゴールを挙げる大活躍を見せた。この試合は、彼の評価を一気に高めることとなった。龍後氏は「彼のギラギラした姿勢が結果につながった」と語る。
塩貝選手は現在21歳。日本代表最年少としても注目を集めており、今後のさらなる飛躍が期待される。龍後氏は「彼ならもっと上を目指せる」と太鼓判を押す。
華やかなピッチの裏側では、選手の未来を左右する“もう一つの戦い”が繰り広げられている。代理人としてのサポートがあってこそ、選手は最高のパフォーマンスを発揮できるのだ。



