45歳の坂本さん(仮名)は、ある週末、仲間とゴルフに出かけた。早起きして遠方のゴルフ場へ向かい、朝からプレーを開始。ところが、第9ホール付近で突然倒れ、そのまま帰らぬ人となった。一見健康に見えた働き盛りの男性を襲った突然死。その真相を法医学者が解剖によって解き明かした。
解剖所見:心臓は黄色く変色、牛のような状態
法医学者の高木徹也氏が執刀した解剖では、坂本さんの心臓は黄色く変色し、まるで牛の心臓のように肥大していたという。冠状動脈を5mm間隔で輪切りにすると、脂肪やコレステロールの塊である「アテローム」が血管内にべっとりと付着し、動脈硬化の典型的な所見が認められた。アテロームは血管を狭め、剥がれて血栓を形成し、心筋梗塞などの重篤な疾患を引き起こす。
さらに、膀胱内の尿の量がごくわずかだったことから、心臓が短時間で停止し、尿生成が急激に停止したことが示唆された。脳血管疾患では心臓停止まで時間がかかるため膀胱内の尿量が多い傾向があるが、本症例では心血管疾患による急死が裏付けられた。最終的な死因は「心筋梗塞」と断定された。
なぜゴルフ中に心筋梗塞が起きたのか
警察の追加調査で、坂本さんには運動習慣がほとんどなかったことが判明。ゴルフ練習場にも滅多に行かず、誘われてたまにプレーする程度だった。平日は職場で深夜まで残業し、休日は自宅で過ごすことが多く、健康診断ではメタボリックシンドロームと高血圧を指摘されていた。さらに、亡くなった当日の昼食時にビールを飲んでいたとの同伴者の証言もあった。
生活習慣病を抱え、肥満体型で運動習慣がないにもかかわらず、疲労が蓄積した状態で早起きし、遠方のゴルフ場へ長距離移動、負荷の大きい運動をこなし、日中から飲酒する——身体が悲鳴を上げたのは当然だろう。
ゴルフの隠れたリスク:早起き、長時間歩行、アルコール
ゴルフは優雅なイメージがあるが、実際は全身を使うスポーツだ。ゴルフ当日は普段より早起きして長距離移動することが多く、自律神経のバランスが崩れやすい。プレー中は日陰が少なく、芝からの照り返しが強いアップダウンの多いコースを約10km近く歩き、時には走るため、心肺機能に大きな負荷がかかる。特に初心者や練習不足の人はボールがあちこちに飛んで歩数が増え、負荷はさらに大きくなる。
ショット時の瞬間的な力みも骨や筋肉に相当な負荷を与える。高木氏は「プロでもよくケガをする。知り合いは素振りのマネをしただけで肋骨を折った」と語る。
飲酒する人も多いゴルフ場:アルコールと心臓への影響
ゴルフ場ではラウンド中や昼食時にアルコールを摂取する人も少なくない。アルコールは心拍数を増加させ、血圧を変動させる。運動中は脱水傾向にあるため、アルコールの影響がより顕著に現れる。高木氏は「運動中の飲酒は心臓に大きな負担をかける。特に生活習慣病を持つ人は避けるべきだ」と警告する。
坂本さんのケースは、働き盛りの男性が何気なく行ったゴルフが、命を奪う tragic な結末を招いた典型例といえる。予防には、日頃からの運動習慣、健康診断の活用、当日の体調管理、そして飲酒の自制が不可欠だ。



