全国の植物園で希少な植物が盗まれる被害が相次いでいる。防犯カメラの設置も進むが、広い敷地での盗難を防ぐには限界があるのが現状だ。専門家は「盗難によって希少種の保全や研究に影響が出る恐れがある」と危機感を募らせている。
準絶滅危惧種が掘り起こされ根元から
300種類の高山植物を展示する白馬五竜高山植物園(長野県白馬村)では6月上旬、準絶滅危惧種の「レブンアツモリソウ」(ラン科)3株が盗まれていたことが発覚した。北海道・礼文島でしか自生しない希少種で、種の保存法で特定国内希少野生動植物種に指定されている。何かを使って掘り起こされたような痕跡があり、根元からなくなっていた。長野県警が窃盗事件として調べている。同園は防犯カメラの設置を検討しており、運営会社の八木貴博さん(53)は「大切に育てていたのに残念。対策を強化したい」と話す。
広大で監視しきれず
京都府立植物園(京都市左京区)では、アフリカの砂漠に分布する裸子植物「キソウテンガイ」や温室内のランがなくなるなど、年間10件ほどの被害がある。温室の出入り口などに防犯カメラ5台を設置しているが、園内は東京ドーム約5個分に当たる計24ヘクタールの広さがあり、監視しきれないという。
国立科学博物館筑波実験植物園(茨城県つくば市)では2022年、温室から日本固有の常緑多年草「タイリンアオイ」が盗まれた。18年には別の温室から、絶滅危惧種で世界最大級の花を持つ「ショクダイオオコンニャク」が盗まれたこともある。園の関係者は「植物園の植物は博物館の収蔵品と同じ。一つひとつに意味があって集めていることを知ってほしい」と訴える。
山菜の感覚・愛好家が盗難・売却目的…摘発も
なぜ植物園で盗難が続くのか。公益社団法人「日本植物園協会」(東京)の遊川知久副会長によると、植物園は各地の山や林を再現して作られており、山菜やどんぐりと同じ感覚で取ってしまう来園者がいる。希少植物の場合は愛好家による盗難が目立つといい、遊川副会長は「植物を育てるうちに希少種を手元に置きたくなるのでは」とみる。売却目的の場合もある。遊川副会長が園長を務める筑波実験植物園では以前、絶滅危惧種のランなどが10鉢以上盗まれてインターネットオークションに出品された。
レブンアツモリソウなど、環境省が国内希少植物に指定する植物を無断で採取し、販売することは種の保存法に違反する可能性がある。昨年3月には、埼玉県警が絶滅危惧種のシダ植物「ヒメヨウラクヒバ」を無許可で売買したとして、男2人を種の保存法違反容疑で書類送検した。23年9月には、警視庁が絶滅危惧種のシダ植物「ヤシャイノデ」を無届けで販売したとして、男2人を同法違反容疑で書類送検している。
東京大の川北篤教授(植物生態学)は「野生に数株しかない貴重な植物が盗難に遭えば、遺伝的多様性の大部分を失うことになり深刻な問題だ」と指摘する。その上で、「園全体への防犯カメラ設置は、心地よい観覧に影響するが、希少種の展示場所には設置するなど、植物園には一層の自衛策が求められる」と話す。
来年3月開幕「園芸博」も警戒強める
希少種の盗難に、横浜市で来年3月に開幕する国際園芸博覧会(園芸博)の関係者も警戒を強めている。園芸博では、希少種を含む1000万株の植物が展示され、1000万人の来場が見込まれる。会場には防犯カメラを設置し、警備員が巡回するほか、入場時の手荷物検査には最新機器を導入する。枝切りばさみなどを持ち込ませないためで、植木道具の持参は事前許可制とする。主催する国際園芸博覧会協会安全対策課の佐藤淳一課長は、「広大な敷地で警備は容易でないが、万全な態勢を構築したい」と話す。



