美貴子は図面を描けるようになりたいと立川先生に直訴した。自分の一存では決められないと一度はかわされたが、二週間後、先生は新しい製図板を運び込み、「今日から始めよう」と告げた。
図面への強い思い
「こういう図面を私、描けるようになりたいんです。どうすればいいですか? どこかに図面の描き方を学べる学校があるのなら、私はそこに行きたいです。もしないのなら、先生に教えていただきたいんです」
「いや、君一人に教えるわけには……」
「私一人ではだめでしょうか?」
「うーん……」
立川先生はそう言って口を噤んでしまった。重苦しい沈黙が美貴子と先生との間に横たわる。
「とにかく、ほかの先生にも聞いてみないと……」
そう言う先生の腕を美貴子はつかんだ。男の人にそんなことをしたのは生まれて初めてのことだった。かっと頰が熱くなる。
「外国の雑誌でも本でも、いくつもの美しい図面を見ました。私もそんな図面を描けるようになりたい。そういう気持ちだけなんです」
立川先生が美貴子の腕をそっと外す。
「わかった、わかったから。君の熱意は理解した。でも、このことは僕の一存では決められない。ほかの先生にも、学校にも相談して決めないといけないことだから。……いいね? このスケッチブックを預かっても?」
「どうかお願いします」
深く頭を下げた美貴子の目の前が涙でぐらぐらと揺れた。
二週間後の返事
正座も掃除もろくにできない、と目をつけられている自分のことだ。多分、だめだろう。そんな暗い気持ちで美貴子は日々を過ごした。
それから二週間後のこと。住居学の授業のあと、立川先生が美貴子に声をかけた。
「今日から始めよう」
そう言いながら、立川先生が教室の外から、真新しい製図板を運んできた。木の香りがするような新しい品だった。
「えっ……」
「言いたくはないが、なかなかに大変なことだったよ。……今までそんなことを言い出す生徒はいなかったと。仲元美貴子が思いつきで言っているんじゃないか、と怒り出す先生もいた。でもね……君のスケッチが君を救ったんだよ。あの絵を見て、君の望みを叶えるべきなんじゃないかと、言ってくださった先生がいた。僕も頭を下げた」