子どもでも大人でも、片付けが苦手な人は少なくない。学習院大学文学部教授で東京大学名誉教授の秋田喜代美氏は、「汚いかどうかの基準は人によって異なり、そこに善し悪しはないが、幼少期の家庭のスタイルが大きく反映している」と指摘する。ノンフィクションライターの山川徹氏が、その実態と対策を聞いた。
なぜ私は片付けができないのか
デスクには書類や資料が無秩序に広がり、床にはいつ読むとも知れない書籍が積み上がる。どこの編集部を訪ねても必ず目にする光景だ。片付けられないという悩みは、出版業界に限らず多くのビジネスパーソンが抱える問題だろう。
「捨てる技術」「断捨離ブーム」「仕事ができる整理術」「ミニマリズム」「片付けられない人の特徴」――。4半世紀にわたるフリーランスライターとしての仕事を振り返っても、片付けをテーマにした雑誌記事を手がけた数は両手で数え切れない。かつては本棚やデスクの整理指南が中心だった特集も、最近はデスクトップ管理術や情報の選別方法が増えた。それだけ片付けに苦しむ人がいる証拠だろう。
そういう私自身も片付けができない。仕事場の床に置かれたボックスには、ずいぶん前に終えた仕事の資料がいまだに突っ込まれ、背表紙をそろえていたはずの本棚は今や横置きの本だらけ。手をつける気すら起きない。
達人に片付けのコツを聞いてきた本人がそうなのだ。どんなに優れた片付けの方法を教えられても、デジタル技術がいくら進歩しても、片付けられない人はずっと片付けられないままなのではないか。私は片付けを半ば諦めていた。だが、今切実に思っている。なんとかしなくては、と。
片付けをしない3歳児
きっかけは、3歳になった息子Kのおもちゃだ。部屋中に散らばるブロックや車のおもちゃを見て、このままではいけないと痛感した。しかし、叱っても片付けようとしない。そこで、秋田氏の研究を思い出し、幼児期の習慣が人生を左右するという知見を改めて考えさせられた。
「成長しても片付けられない」
秋田氏の調査によれば、片付けができない子どもは、大人になってもその傾向が続くという。幼少期に身についた習慣は簡単には変わらず、特に家庭での片付けのスタイルが基準となる。親が片付けを強制するのではなく、自然に身につく環境づくりが重要だと強調する。
幼少期の家庭が基準になる
「汚い」と感じる基準は人それぞれだが、それは幼少期の家庭環境で形成される。例えば、常に整理整頓された家庭で育った子は、散らかった状態に違和感を覚える。一方、多少散らかっていても気にならない家庭では、片付けに対する意識が低くなりがちだ。秋田氏は「善し悪しではなく、家庭のスタイルが反映される」と語る。
片付けが得意になるコツ
では、どうすれば片付けが得意になるのか。秋田氏は、以下のポイントを挙げる。
- 小さな成功体験を積む:最初から全部を片付けようとせず、1つの引き出しや棚だけでもきれいにすることで達成感を味わう。
- ルーティン化する:毎日決まった時間に片付けの時間を設け、習慣として定着させる。
- 「しまう場所」を決める:物の住所を決め、使ったら元の場所に戻すルールを作る。
ビジネスでも使える“期待を語る育児”
秋田氏は、育児において「期待を語る」ことの重要性も指摘する。「あなたなら片付けられるよ」と肯定的な言葉をかけることで、子どもの自己効力感が高まり、自発的に行動するようになる。これはビジネスの場でも応用でき、部下や同僚に対して期待を伝えることで、モチベーション向上につながる。
恐怖を動機にするのはNG
一方で、「片付けないとおもちゃを捨てる」などの恐怖を動機にした方法は逆効果だ。恐怖で動かされた行動は長続きせず、子どもにトラウマを残す可能性もある。あくまでポジティブな動機付けが大切だと秋田氏は強調する。
片付けは単なる生活スキルではなく、人生の質を左右する習慣だ。幼児期からの適切な関わりが、将来の整理整頓能力を育むのである。



