山岳遭難と言えば、富士山や剱岳などの急峻な山を思い浮かべがちだが、実は日本一遭難の多い山は、標高599メートルの高尾山である。気軽なハイキング気分で出かけるイメージのある低山で、なぜ遭難が多発するのか。新刊『低山遭難 「まさかの遭難」から生きて帰った人たち』を上梓したフリーライターで長野県山岳遭難防止アドバイザーの羽根田治氏が、低山ブームの背景と、低山遭難に関する一冊をまとめた動機を語る。
コロナ禍が後押しした低山ブーム
登山はブームの域を超え、自然に親しむライフスタイルの一環として、老若男女に広く浸透している。楽しみ方もハイキング、ピークハント、縦走登山、沢登り、アルパインクライミング、フリークライミング、雪山登山、バックカントリースキー、トレイルランニングなど多岐にわたる。その中で近年人気となっているのが「低山」、つまり誰でもハイキング気分で手軽に楽しめる標高の低い山である。
住んでいるエリアにもよるが、例えば札幌なら藻岩山や三角山、東京なら高尾山、大阪なら金剛山や生駒山、神戸なら六甲山、福岡なら油山といった身近な低山が、おそらく全国各地にある。低山が注目されるようになったのは、中高年の登山ブームが始まった1990年代初めごろからで、2008年ごろに山ガールブームが到来すると、中高年に交じって若者たちの姿も低山で目につくようになった。
それが「ブーム」と呼ばれるほどに人気が高まったのは、2020年初頭から始まったコロナ禍の影響が大きい。当時、新型コロナウイルス感染拡大を受け、政府や自治体は国民に「都道府県をまたいだ移動の自粛」を呼び掛け、「三密(密閉・密集・密接)を避ける行動」を奨励した。これにより、遠方の山に行けなくなった登山者が代わりにターゲットとしたのが、身近な低山だった。
遭難者数最多は東京の高尾山
羽根田氏は、コロナ収束後も低山登山の人気が続く理由について、低山が手軽でアクセスしやすいこと、そして登山人口の裾野が広がったことを挙げている。しかし、その一方で低山での遭難も増加しており、特に高尾山では遭難者数が全国最多となっている。気軽な気持ちで臨むあまり、装備不足や道迷いなどが原因で遭難に至るケースが多いと指摘する。
遭難当事者に直接取材して得た教訓
羽根田氏は新刊で、低山遭難の実例を紹介し、生還者が「命がけで得た教訓」を伝えている。低山だからこそ、油断せずに十分な準備と知識を持って臨むことの重要性を強調している。



