2026年7月28日に発生した熊本地震に伴う「イオンモール熊本」での爆発事故で、テナント従業員など7人が亡くなった。犠牲者の中には、一度は屋外へ避難したものの、売上金を金庫へ移すよう指示され、館内に戻った後に爆発に巻き込まれた人々がいたことが明らかになっている。
避難後の売上金回収指示
雑貨店を運営するテナント企業「ハビタ」は、避難していた従業員2人に対し、売上金を金庫へ移すよう指示したことを認めている。同社幹部は記者会見で、「無理のない範囲で」といった趣旨の配慮の言葉があったとされるが、危機管理の専門家はこの判断の危険性を指摘する。
東北大学特任教授で危機管理コミュニケーション専門家の増沢隆太氏は、「人は非常時には平常通りの合理的な判断ができない」とし、危機管理の根幹には「正常化バイアス」への理解が必要だと述べる。正常化バイアスとは、災害や事故に直面した際に「大したことないだろう」「すぐ元に戻るはずだ」と過小評価してしまう心理現象で、個人の資質ではなく人間に共通する傾向だという。
「短時間なら大丈夫」という危険な判断
増沢氏は、平時に刷り込まれた感覚が非常時にも持ち込まれる危険性を指摘。売上を守る、現金を管理するといった通常業務の判断が、避難後の安全な状況下で介入したことで、人命保護よりも日常業務が優先される結果になった可能性があると述べている。
「短時間なら大丈夫だろう」「すぐ戻ってこられるはずだ」と甘い判断をしてしまう可能性は誰にでもある。だからこそ、危機管理においては「人は誰しも正常化バイアスに陥る」という前提で制度や手順を設計しなければならないと強調する。
「どう伝わるか」が重要
増沢氏は、危機対応マニュアルは「平時ではない状態でいかに機能させられるか」という視点が欠かせないとし、指示に「無理のない範囲で」といった言葉が添えられたかどうかではなく、極限状態の現場でどう受け止められるかを経営陣が正確に予見できていたかが重要だと指摘する。
今回の事故は、危機管理が組織の在り方を映し出す好例であり、経営陣の真の能力が問われている。



