福岡県中間市の私立保育園で当時5歳の園児が送迎バスに取り残され、熱中症で死亡した事件から29日で5年となる。国は幼稚園や保育園の通園バスに安全装置の設置を義務付けるなど対策を強化したが、人為的なミスは後を絶たない。今夏も危険な暑さが続いており、幾重の対策で最悪の事態を防ぐ体制の構築が求められている。
子ども自身が助かるすべ
27日、中間市の「なかまハーモニーホール」の駐車場で、約30人の子どもたちがバンの運転席で後ろ向きに立ち、ハンドルに腰を下ろすと、けたたましいクラクションの音が響き渡った。子どもが一人で車内に閉じ込められた時に、外にいる大人に助けを求めるための訓練で、腕力がない子どもでもお尻で押せばクラクションを鳴らせることを学んだ。
指導したのは山口県下関市の市民団体「te to te(てとて)」代表で元幼稚園教諭の古賀あさ美さん(47)。中間市の事件にショックを受け、2024年5月に海外の取り組みを参考に団体を設立し、保育園職員に研修をしたり、置き去りに注意を促すステッカーを約6000枚配布したりしてきた。古賀さんは「5年前よりも暑い日が増え、事故が起こりやすくなっている。注意を呼びかけていきたい」と話す。
日本自動車連盟(JAF)によると、夏場の車内は冷房停止からわずか5分で38度にまで達することがある。
安全装置も人為的ミスで無意味に
中間の事件とその翌年に静岡県牧之原市で起きた同様の事件を受け、国は23年4月に送迎バスへの安全装置設置を義務化。24年3月までに全国約5万4000台に取り付けられた。北九州市戸畑区の明泉寺幼稚園でも3台の通園バスに設置し、エンジンを切ると「子どもは残っていませんか。シートを確認してください」とのアナウンスが流れ、10分以上放置されると大音量のアラームが鳴る仕組みだ。
しかし、安全装置の効果を無にする人為的ミスが各地で続いている。昨年9月、岐阜県大垣市の認定こども園で2歳の女児が約1時間置き去りにされる事案があった。バスにはエンジンを切るとアラームが作動する装置がついていたが、この日はアラームが解除され、座席の確認もなされなかったという。女児は無事だったが、国は全国の施設に送迎時の装置の適切な運用や点検を求めた。
今月24日には、大分県立特別支援学校の委託業者が運行するスクールバスで6月に起きた置き去り事案が発覚。最後尾のボタンを押さないとブザーが鳴り続ける装置を備えていながら、運転手が独断で取り外していた。児童1人が約50分間取り残されたが、保護者からハザードランプのボタンを押すよう教わっており、気付いた教員らに救助された。
明泉寺幼稚園も安全装置とともに電子ホイッスルを配備し、閉じ込められた際の対応を子どもらに指導。西脇祥起保育主事(65)は「装置だけに頼らず、園児の登園情報を職員間で共有することも大切にしている」と語る。
幾重もの対策を
東京学芸大の渡辺正樹名誉教授(安全教育学)は「安全装置はあくまでも人の確認を補助するものにすぎない。出欠確認で児童の所在を把握することなども必要」と強調。その上で「安全確認は何重にも徹底するべきだ。子どもにクラクションの鳴らし方やハザードランプのつけ方を教えておくことは、万一の際の助けになる。万全の対策を講じてほしい」と呼びかけている。
◆中間市の園バス事件=2021年7月29日、私立双葉保育園で窓を閉め切った車内に倉掛冬生(とうま)ちゃんが約9時間放置されて熱中症で死亡した。運行した当時の園長と、園児を降車させて引率する役目の保育士が業務上過失致死罪に問われ、福岡地裁は22年11月、元園長に禁錮2年、執行猶予3年、保育士に禁錮1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。



