熊野古道の最年長語り部、90歳の植物愛と大樹に導かれた人生
熊野古道最年長語り部、90歳の植物愛と大樹

熊野古道伊勢路を案内する「熊野古道語り部友の会」で、最年長の語り部を務める谷口昌宏さん(90)が、植物への深い愛情と大樹に導かれた人生を歩んできた。

戦時中を生き延び、製紙会社で木材研究

谷口さんは神戸市出身。戦時中は空襲に見舞われ、自宅の床下に掘った穴に逃げ込むなどして生き延びた。大学で応用化学を学んだ後、三重県紀宝町の製紙会社に研究員として就職。紙の原料に適した木材を求めて、世界中から調達した木々を研究し、「南アフリカやオーストラリアのユーカリが最適だった」という。

定年後に植物学を独学、熊野古道でガイド開始

定年退職を機に、興味のあった植物について独学で学び始めた。ちょうど熊野古道の世界遺産登録への機運が高まる時期で、専門家の植物調査に同行し、様々な草花を見て知見を深めた。

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特に気に入っていたのが、紀宝町に隣接する熊野速玉大社(和歌山県新宮市)境内にあるナギの大樹。樹齢約1000年とも言われる荘厳な神木を見上げるたび、64歳の時に「植物の知識を生かし、ここの魅力と歴史を伝えたい」と思い立ち、ガイドを始めた。

三重県での活動と松本峠でのガイド

和歌山にとどまらず、三重の植生への興味も膨らみ、78歳で「熊野古道語り部友の会」に入会。熊野古道松本峠(三重県熊野市)では、重厚な石畳や言い伝えに加え、ツバキの花などを実際に手に取り構造を解説する。「実物を見せるのが一番伝わる。松本峠は植物の種類が豊富で案内が楽しい」と語る。

石塔の謎を解明、冊子を自費制作

観光客の質問に答えられるよう、植物以外に歴史や文化などあらゆる分野の情報を頭に入れてきたが、昨春、答えに窮する質問に遭遇した。松本峠で東京からの観光客の女性を案内中、地蔵の後ろに立つ「南無阿弥陀仏」の文字が彫られた石塔について「祐天上人の筆跡ではないか」と尋ねられたのだ。

石塔には個性的な筆跡があったが、由来は地元でも知られていなかった。写真を撮って専門家に連絡し、昨年11月に祐天寺(東京都目黒区)の住職らが現地調査。その結果、祐天上人にまつわる石塔である可能性が極めて高いことが判明。文字は若い頃の書体とみられ、全国的にも珍しいという。

「貴重な文化財として後世に語り継がなくてはいけない」と今年6月、石塔と祐天上人についてまとめた冊子を自費制作。松本峠の見所も盛り込み、希望者に無料配布した。

生きがいは地域の魅力を伝えること

「地域の魅力を伝えることは生きがいそのもの」。自宅で妻の介護をしているため語り部の機会は減っているが、探究心は衰えない。語り部として精進すべく、日々庭の植物の観察や資料収集を続けている。

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