エジプトとエチオピアがアフリカ東部「アフリカの角」地域で覇権を競っている。ナイル川の水資源を巡って長く続く両国の対立が、地域の主導権争いに火をつけた形だ。情勢は中東政治とも連動し、複雑化しつつある。
エジプトの外交攻勢
エジプトのアブドルファタハ・シシ大統領は6月8日、「アフリカの角」の一角であるエリトリアのイサイアス・アフウェルキ大統領を首都カイロに招き、「紅海の管理と安全に関する沿岸諸国の独占的な責任」を確認し合った。昨年10月にも会談したばかりで、エジプトはエチオピアから独立したエリトリアとの急接近ぶりをアピールした。
エジプトは「アフリカの角」を「国家安全保障の延長線上」と位置づける。紅海とアデン湾を結ぶ海上交通の要衝バブ・エル・マンデブ海峡の安定は、スエズ運河を管理するエジプトにとって死活問題だ。エジプトは、同じ沿岸国のジブチやソマリアとも関係を強化し始めている。
エチオピアの対抗策
一方のエチオピアも対抗するように、今年1月と3月にジブチ、ソマリアと3か国首脳会談を実施した。エチオピアはソマリアから一方的に独立を宣言している「ソマリランド」を支持し、ソマリアと不和になっていたが、方針転換した。エチオピアのアビー・アハメド首相は「ソマリアと兄弟のような深い関係を築いていく」と強調する。エジプトがソマリアとの関係を重視してソマリランドを批判するのとは対照的に、エチオピアは双方と友好関係を築いて影響力を拡大する戦略を描く。
ナイル川を巡る歴史的対立
ナイル川の下流のエジプトと上流のエチオピアは歴史的に因縁のライバル関係にある。昨年9月、エチオピアが長年にわたるエジプトの反対を押し切って「大エチオピア・ルネサンスダム」(高さ145メートル、長さ1.8キロ)の運用を始め、関係は悪化した。エジプト政府によると、同月下旬までに「ダムの水位が1メートル低下する」規模の水が放流され、ナイルデルタで洪水が発生。エジプトには将来の取水量減少への危機感もある。
内陸国エチオピアが海洋とつながるには、「アフリカの角」沿岸国との連携が不可欠だ。エジプトの「角」への外交攻勢はダムの運用開始と時期が重なり、ナイルの水流を握られた意趣返しとの見方もある。エチオピア外務省幹部は5月、「エジプトが我々の平和的な海洋進出を妨害している」と批判した。
イスラエルの影とソマリランド問題
今後、情勢を左右するのはソマリランドを巡る動向だ。エチオピアと良好な関係のイスラエルは昨年12月、世界で初めてソマリランドを国家承認した。エチオピアとイスラエルはソマリランドに軍事拠点を置く狙いがあると指摘される。
エジプトはイスラエルと平和条約を結んでいるが、「冷たい平和」と言われる関係だ。中東研究センター(エジプト)のフセイン・アリ氏は「ソマリランドの動き次第ではアフリカの角の勢力均衡が崩れる恐れがある」と分析している。
ナイルデルタの荒廃
エジプトは、エチオピアの巨大ダムが農地を変容させたと主張している。実際、肥沃なナイルデルタの一角を成すエジプト北部ミヌフィーヤを6月に訪れると、荒廃した畑が広がっていた。農家ムハンマド・サイードさん(63)は「完全に不毛の地になった」と嘆く。昨年9月に川の氾濫で冠水するまで、トマトやジャガイモ、インゲンマメが実る豊かな土壌だったという。地面は今も乾き、鼻をつく強烈な異臭が漂っていた。
ナイル川の上流が夏に雨期に入ると、下流でも次第に水かさが増す。だが、サイードさんは「畑の水没は人生で初めて」と言い、「先祖代々の土地も、家族の生活も、エチオピアに奪われた」と憤った。



