肥満治療に用いられるGLP-1薬について、日本と米国ではその捉え方に大きな隔たりがある。ボストン在住の日本人内科医師・大西睦子氏(医学博士)は、現地での治療実態を踏まえ、日本における「マンジャロは危ない」という認識に欠けた視点があると指摘する。
保険適用外のジレンマ
大西氏は、日本で肥満に悩む患者からGLP-1薬の処方を求められた際、「今の制度では保険適用外です」と説明せざるを得なかったという。患者は苦笑いしながら「もっと太るか、本当に糖尿病になるまで待つしかないんですね」と返し、帰っていった。この言葉が今も忘れられないと大西氏は語る。
副作用への過度な恐れ
GLP-1薬の副作用を危険視する声があるが、大西氏は「簡易的なオンライン診療で適切な説明なく使用させるケースではリスクは否定できない」としつつも、「GLP-1薬に詳しい医師が患者をしっかりフォローし、二人三脚で治療を進めれば、過度に恐れる必要はない」と強調する。重要なのは、吐き気や嘔吐などの消化器症状、まれに起こりうる胆のう疾患など、副作用や注意点を患者が治療前に十分理解し、治療中も定期的に経過を確認することだ。適切な管理のもとでは、多くの場合安全に治療を継続できるという。
更年期女性こそ恩恵を受けるべき
日本ではGLP-1薬が若い女性の美容目的で話題になりがちだが、大西氏の外来で実際に相談に来るのは更年期の女性が多い。閉経前後は女性ホルモンの変化で内臓脂肪が増えやすく、高血圧、脂質異常症、インスリン抵抗性、脂肪肝、心血管疾患などのリスクが上昇する。近年の研究でも、更年期は体重増加と心血管疾患や糖尿病のリスクが高まる重要な時期と示されている。本来、こうした女性こそGLP-1薬の恩恵を受ける可能性があるが、日本では保険適用外のため届かない。美容目的では使われる一方、ホルモン変化に悩みながら「年齢のせいだから仕方ない」と我慢する女性たちが使えない矛盾に、大西氏は疑問を呈する。
「医者が儲ける」という誤解
日本では「マンジャロは高い」「医者が儲けている」との声もよく聞かれる。しかし、大西氏はこうした認識も誤解に基づくものだと指摘する。米国ではGLP-1薬は広く肥満治療に使われ、適切な管理のもとで安全に使用されている。日本でも、保険適用の拡大や正しい情報の普及が求められる。



