マンジャロは危ない?米国で進むGLP-1薬の認識変化と日本の課題
米国GLP-1薬の認識変化と日本の課題

日本では「マンジャロは危ない」といった声が聞かれる一方、アメリカではGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)をめぐる議論が新たな段階に入っている。ボストン在住の内科医師・大西睦子氏(医学博士)によれば、米国ではすでに「やせ薬問題」のフェーズを過ぎ、「病気予防」や「健康寿命を延ばす薬」へと焦点が移行しているという。

成人の8人に1人が使用、GLP-1薬は社会現象に

2025年にKFF(Kaiser Family Foundation)が実施した調査によると、アメリカの成人の約12%(8人に1人)がGLP-1薬を現在使用していると回答。数年前までは「ハリウッドのセレブが使うやせ薬」というイメージが強かったが、今では職場や友人、家族など身近な存在となっている。

肥満大国・米国でこの薬が急速に普及した背景には、長年求められてきた肥満治療への期待に加え、SNSによる情報拡散、米国特有の医薬品広告、コロナ禍以降に急成長したオンライン診療などの要因が重なった。大西氏は「GLP-1薬は単なる医薬品を超えた社会現象になった」と指摘する。

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「肥満は意志の弱さではない」—米国で変わる肥満の定義

米国では肥満そのものの定義が変わりつつある。従来は「カロリーの摂りすぎと運動不足」が原因とされ、個人の努力不足とみなされる傾向があった。しかし現在では、肥満は脳の報酬系やホルモンバランスが関与する慢性疾患として認識され、治療が必要な病態と捉えられるようになった。

この認識変化がGLP-1薬の普及を後押ししている。大西氏は「肥満は意志の弱さではなく、医学的に治療すべき疾患だという理解が広がっている」と話す。

「痩身」から「病気予防」へ—健康寿命延伸への期待

米国での議論は、単なる体重減少から、心血管疾患や糖尿病などの合併症予防、さらには健康寿命延伸へとシフトしている。GLP-1薬の大規模臨床試験では、主要な心血管イベントのリスク低減効果が示されており、保険適用の拡大にもつながっている。

一方、日本では不適切使用や転売が問題視され、マンジャロなどが「危ない薬」と報じられることも多い。大西氏は「必要な人にほど薬が届きにくい状況がある」と警鐘を鳴らす。

日本で肥満症を診る病院が少ない現実

日本では肥満症を専門に診る医療機関が限られており、更年期の女性などホルモン変動で体重増加に悩む人々が適切な治療を受けられないケースが多い。大西氏のクリニックにも、更年期の体重増加に悩む女性からの相談が増えているという。

「肥満症治療のハードルが高く、患者が必要な医療にアクセスできない」と大西氏は指摘。GLP-1薬の適正使用には、医師の教育と診療体制の整備が不可欠だと訴える。

GLP-1薬革命の本当の意味

GLP-1薬の登場は、肥満治療のパラダイムシフトをもたらした。米国では「病気予防」や「健康寿命延伸」のツールとして期待が高まる一方、日本ではまだ「やせ薬」のイメージが強く、議論のギャップが生じている。

大西氏は「日本でも肥満を疾患として捉え、適切な治療を提供する体制づくりが必要だ」と強調。GLP-1薬をめぐる議論は、単なる薬の是非を超え、医療制度や社会の肥満に対する認識そのものを問い直す契機となっている。

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