2024年10月、東京外国為替市場で円相場が一時1ドル=150円台を突破した。しかし、この円安水準にもかかわらず、日本企業の輸出競争力は回復していないことが、東洋経済の分析で明らかになった。実質実効為替レート(REER)は1970年代前半の水準にまで低下し、国際的な価格競争力は過去最低を記録している。
実質実効為替レートが示す現実
実質実効為替レートは、貿易相手国の通貨に対する円の総合的な価値を、物価変動を調整して算出した指標だ。日本銀行のデータによると、2024年8月のREERは70.8(2015年=100)と、1972年以来の低水準となった。これは、日本の輸出製品が国際市場で相対的に高くなっていることを意味する。
「1ドル150円という名目為替レートだけを見ると、日本企業は輸出しやすい環境にあると思われがちだが、実質ベースでは全く逆の現象が起きている」と、第一生命経済研究所の経済調査部主任エコノミストは指摘する。実際、2000年代初頭には1ドル=120円程度でもREERは100前後だったが、現在は150円でも70台にとどまる。
輸出企業の収益構造の変化
円安の恩恵を受けやすいとされる自動車産業でも、状況は一様ではない。トヨタ自動車の2024年度上期(4~9月)の連結営業利益は、円安効果で約5000億円の押し上げ要因があったものの、販売台数は前年同期比で減少した。同社の広報担当者は「為替の影響は一時的であり、根本的な競争力強化にはコスト削減と付加価値向上が不可欠」と語る。
また、円安による輸入原材料費の高騰が、中小企業を中心に収益を圧迫している。日本商工会議所の調査では、2024年9月時点で従業員300人未満の企業の約6割が「収益が悪化した」と回答。特に、食品や繊維などの業種では、円安メリットを享受できないケースが目立つ。
非製造業の苦境と賃金格差
輸出企業とは対照的に、非製造業は円安の逆風にさらされている。特に、エネルギーや食料品の輸入コスト上昇は、家計や小売業に直接的な打撃を与える。帝国データバンクのデータによると、2024年上半期の企業倒産件数は前年同期比で15%増加し、そのうち約4割が「物価高」を原因として挙げている。
さらに、実質賃金の伸び悩みが国内消費を冷え込ませている。厚生労働省の毎月勤労統計調査では、2024年8月の実質賃金は前年同月比で0.6%減少し、18カ月連続のマイナスとなった。賃金上昇が物価上昇に追いつかず、労働者の購買力は低下し続けている。
今後の展望と政策課題
専門家の間では、日本銀行の金融政策正常化が遅れれば、さらなる円安が進行する可能性があるとの見方もある。しかし、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのシニアエコノミストは「為替介入や利上げだけでは問題の本質は解決しない。構造的な競争力強化には、デジタル化や人材投資を通じた生産性向上が不可欠だ」と指摘する。
政府は2024年度の経済対策で、半導体や蓄電池などの戦略分野への投資促進を掲げるが、その効果が表れるまでには時間がかかる。輸出競争力の回復には、賃金上昇と国内需要の喚起を両立させる、より総合的な政策パッケージが求められている。



