心臓移植や人工心臓に進む前に、弱った心臓を自分の体の中で生かし続ける道を作れないか。心臓外科医で大阪大特任教授の澤芳樹氏は、救える命を救いたいとの思いから、重症心不全に対する再生医療に長く取り組んできた。
人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った心筋細胞をシート状にし、心臓の表面に貼る治療は今年、再生医療等製品「リハート」として条件・期限付き承認を受けた。狙うのは心臓を丸ごと作り替えることではない。まだ助けられる部分を支え、患者が日常生活を取り戻すことだ。
心臓移植の限界と再生医療への挑戦
心臓外科医として救える命を救ってきましたが、心臓移植や人工心臓にも限界があります。重症心不全を救うため、1990年代後半から再生医療に取り組みました。2000年ごろから細胞シートを研究し、07年には患者さん自身の足の筋肉の細胞を使う治療を実施しました。この治療を、iPS細胞を使えば本格化できると考え、08年から山中伸弥・京都大教授と共同研究を始めました。ようやくここまで来たという思いです。
重症心不全には、薬、カテーテル治療、バイパス手術、人工心臓、心臓移植などがあります。薬も進歩し、元気になる患者さんはいます。それでもあらゆる治療を尽くして改善せず、このままでは人工心臓か心臓移植、あるいは亡くなるという患者さんがいます。心臓移植は重要ですが、臓器提供者は限られ、日本では待機期間も長い。全ての患者さんを移植だけで救うことはできません。
心筋細胞シートの狙いと今後の課題
だから移植に進む前に、患者さん自身の心臓を生かす治療が必要です。心筋細胞シートは単なる移植までの「つなぎ」ではなく、患者さんによっては移植を回避できる可能性もあります。患者さん自身の心臓をできるだけ長く使うための治療です。
誰に、どの段階で使えば効果が期待できるのか。製造や医療体制をどう整え、費用を抑えるのか。新たな治療を標準的な選択肢へ育て、世界に届けるための課題が残されている。



