「罪と向き合うだけやのうて、後悔の、その先を見るんや」メダデ物語・第1章〈20〉
「罪と向き合うだけやのうて、後悔の先を見る」メダデ物語

大阪市西成区のメダデ教会で、元暴力団員のマサミチが更生への歩みを本格化させている。牧師の西田好子(70)は、彼に「奪う者から、与える者に変われ」と伝道の役割を与え、マサミチは生まれて初めて賛美歌を歌った。

教会に戻ったマサミチ、穏やかな表情で信徒と交流

4月29日昼、マサミチが大阪メトロの駅改札口に現れた。随分痩せて、足を引きずっていたが、表情は穏やかだった。改札口で出迎えたメダデ教会の牧師西田好子や信徒たちと一人ずつ抱擁を交わし、そのたびに「ありがとう、ありがとう」と声をかけた。

教会に戻ったマサミチから、以前のような威圧的な態度が消えた。酒を完全に断ち、聖書を読み、信徒たちと和やかに談笑した。変化の理由は一つではない。西田への恩、老いて丸くなったこともある。だが最大の理由は、彼と接する側――メダデの信徒たちが変わったことにあった。

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以前は、元ヤクザの過去におびえ、距離を置いていた者たちが、足腰の弱った彼の世話を当然のようにこなし、話しかけ、冗談を飛ばすまでになった。

「ちんけな愛」が「大きな愛」に、信徒たちの懐の深さ

マサミチ不在のこの2年、教会は変革期にあった。寝たきりのイシズの世話を通じ、西田流に言えば「ちんけな愛」が「大きな愛」に成長した。希代のトラブルメーカー、ヒデキ(46)とも向き合った。

「諦めずに本音でぶつかれば、どんな人間でも更生する可能性がある」。そのことを学んだ信徒たちには、マサミチをも包み込む懐の深さが生まれていた。

母の生存を知り、罪の重さに潰されそうになる

平穏さを取り戻したマサミチの心にさざ波が立つ出来事が起こった。5月下旬、彼の元に届いた一通の封筒。既に亡くなった親族に関する税関係の書類だった。それを見た西田がふと口にした。「そういえば、あんた、お母ちゃん生きてるんか?」

マサミチは不意をつかれた。大正生まれの母は、生きていれば90歳代半ば。勘当されて半世紀、音信不通のまま。生きているわけがない。だが確かめたことは、ない。思い切って戸籍を取り寄せた。「生きていた」

マサミチの母は「生きている」。少なくとも戸籍上は、生きている。年齢は90歳代半ば。住所地はマサミチの故郷、九州。電話番号はわからない。話ができる状態かも、わからない。それでも西田は、彼を九州まで連れて行こうと考えている。

しかしマサミチは母の生存の可能性と西田の提案に眠れなくなった。「許してくれるやろうか」。父は早世し、女手一つで育ててくれた母には、成人前に勘当されていた。暴力団に入り、殺人まで犯したことを、母は、どこまで知っているのだろう。人生の最終盤を迎えた母に、今さら何を、どこまで、告げればいいのか。

考えているうち、マサミチは自らの罪の重さに潰されそうになった。「殺した相手は、未婚で、子どももいないヤクザ者」。そう言って罪を矮小化してきたが、彼にも親がいた。その先に長い長い人生があったのだ。あの事件がなければ、今、この教会にいるのは自分ではなく、彼だったかもしれない。「ほんまに、悪いことをした」と心の底から、痛恨の思いがわき上がってきた。

「後悔の、その先を見る」、伝道という大仕事

西田は「その気持ちは大事や。祈れ。でもな、罪と向き合うだけやのうて、後悔の、その先を見るんや」と語る。西田の考える贖罪は、「過去」を反省し続けることとは、違う。「今」できることを全力でやる。その積み重ねが「未来」となり、やがて「新しい過去」となる。

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西田はマサミチに仕事を与えることにした。彼だからこそできる、大仕事だった。それは伝道だった。教会近くの釜ヶ崎(あいりん地区)には、マサミチのような重い過去を背負う者が大勢いる。その一人ひとりに語りかけろ、と言うのだ。「あんたも来うへんか」と。

西田が思うに、クリスチャンにとって、伝道は「最大の奉仕」だ。生きる気力を失った者を立ち直らせることこそが、神の求めていること。だが、実行に移す信徒は、なかなかいなかった。

唯一の例外は現在、刑務所に服役中のヒデキ(46)だ。若い頃からのシンナー漬けで過去19回服役したヒデキは昨年、メダデ教会に入った。結局、シンナーの所持で刑務所に戻ったが、西田の奮闘と信徒たちの支えで更生の糸口をつかんだ彼は今、「燃えている」。獄中で己の行為を悔い改め、聖書を読み、西田に手紙を書き、他の受刑者にこう語りかけている。「西成にすごい牧師がおってな――」。西田の元には、顔も知らない受刑者たちから手紙が届くようになった。

西田はマサミチに「ヒデキにあんたの車いすを押させるから、2人で片っ端から声かけろ。ここに連れてくるんや。奪う者から、与える者に変われ」と伝えた。

6月の礼拝前、マサミチがやや改まった調子で信徒たちに呼びかけた。「困ったことがあったら、相談せえ」。そして、頑なに拒んでいた賛美歌を生まれて初めて歌った。一体何が? 記者の視線に西田はいたずらっぽく舌を出した。「あの子に言うたってん。あんた、ヤクザやのうて、この教会でてっぺん取れ、お母ちゃんにええ所見せたるんや、ってな」

更生とは結果ではなく、過程の積み重ね。その歩みを始めたマサミチは「負けた」と、西田は言う。「私らの愛のしつこさに負けたんや」