毎夏恒例の現代音楽の祭典「サントリーホール サマーフェスティバル」(22~30日)の今年のテーマ作曲家ルカ・フランチェスコーニ(70)は、歴史ある西洋音楽の行き詰まりを、原始的なパワーと無垢な精神で乗り越えようとしている。その真意を聞いた。(松本良一)
西洋音楽の現実からの遊離を危惧
イタリアに生まれ、ベリオやシュトックハウゼンら多くの現代作曲家の薫陶を受けた。最新のテクノロジーを駆使し、実験精神あふれる作品を書き続けてきた大家はいま、20世紀後半の「前衛の時代」を振り返り、「歴史と伝統が極限まで解体された結果、西洋音楽は現実世界から遊離してしまった」と見る。
「理屈っぽく頭でっかちな音響は、音楽本来の初発的な力を失っている。そのことをずっと危惧している」
生命の輝きを取り戻す新作
繰り返し創作の主題としてきたのは、自然に由来し不定形で流動する「何か」を、人間精神の深層に届く形で表現すること。一つの例が、29日の「オーケストラ・ポートレート」公演でバイオリニストのリーラ・ジョセフォウィッツと大野和士指揮・東京都交響楽団によって演奏される、「バイオリンと管弦楽のための『ドゥエンデ(鬼気迫るもの)―黒い音』」だ。
「冷たい知性に抑圧されている『何か』、すなわち生命の輝きを取り戻すには、子供が持っている純粋でファンタスティックなエネルギーが必要です」と意図を語る。
西洋と東洋の対比を軸に
世界初演される目玉の委嘱新作「フェローチェ・インノチェンツァ(野生の無垢)」は、25分ほどの作品で、二つの対立を軸に展開される。
「一つは過去と現在。モーツァルトの歌劇『ドン・ジョバンニ』のフレーズを素材に用い、大オーケストラが劇的な『物語』を再創造する。もう一つは直線的な時間と円環の時間。これは西洋と東洋の対比といってもいい」と解説する。
必然の結果へと向かう音楽の進行は西洋文明そのもの。一方、循環する自然や生命をイメージさせる音楽の流れは東洋文明を象徴する。「方法論の袋小路に陥ったヨーロッパの音楽にとって、日本の伝統的な世界観は一つの希望を与えてくれる」
音楽は分かりやすいものではないが、「自作はエンターテインメントではない。頭ではなく腹で聴き、劇的なドラマを感じ取ってほしい」と話す。
午後6時開演。23日午後3時からはブルーローズ(小ホール)で自身の室内楽作品を集めた公演も。(電)0570・55・0017。



