林光がマルシャーク原作の戯曲をオペラ化した「森は生きている」が、新国立劇場で上演された。こんにゃく座による1992年の初演以来、上演回数は1000回を超えるという。日本のオペラとしては最多ではないかとみられる。今回はびわ湖ホールのプロジェクトを新国立劇場が招聘した形だ。
物語のあらすじと魅力
わがままな女王の命で、真冬にもかかわらず春の花を探しに行くむすめ。森で出会うのは、1月から12月までの「月の精」たちである。彼らは互いに譲り合い、むすめのために1時間だけ春を呼ぶ。奇跡とは神がかりの恩寵というより、人々の思いが生み出す「例外」の謂いなのであろう。どんな権力も従わざるを得ない時間の秩序に、ほんの一瞬、共同体の優しさが穴をあける。ここに物語の美しさがある。
音楽と演出の特徴
林の音楽は平易に見えて単純ではない。真似して歌えばすぐ分かるが、かなり器楽的な旋律線である。今回はびわ湖ホールの「オペラ歌手」たちによる舞台だが、こんにゃく座が培ってきた日本語を明晰に届ける演劇的な発声と、オペラ的な声の量感や快楽を、実にうまく両立させていた。ピアノを核にした室内オーケストラ(阪哲朗指揮)も、その均衡をしなやかに支えた。
今日的な解釈と評価
問題は、強欲に善良が勝利するあまりにも類型的な寓話を今日どう読むかである。独裁政治や環境問題に結びつけることもできるだろうが、それでは話が安くなる。中村敬一の演出の美点は、そうした誘惑に屈せず、真正面から「子どもむけ寓話」を丁寧に描く点にあった。舞台美術や衣装もとてもきれいだ。それはよく理解できるが、その潔さゆえに「大人」である評者は、素朴な旋律と物語から何を聴き取るべきかを考え続けることになった。ロングランを続ける作品独特のしぶとさだけは、確かに体感できたという。
公演は7月19日、東京・初台の新国立劇場中劇場で行われた。



