映画『八月の声を運ぶ男』(製作・配給:WOWOW)で主演を務める本木雅弘が、共演の阿部サダヲ、柴田岳志監督と鼎談した動画が公開された。30年ぶりに共演した阿部の独特な役作りに興味津々で、その“システムの謎”に迫っている。
30年ぶり共演は「奇跡」
同作は、1,000人を超える被爆者の声を集め続けた実在のジャーナリスト・伊藤明彦氏の実話を基に、原爆によってもたらされた数奇な出会いを描くヒューマンドラマ。ジャーナリストとして被爆者の声を集め続ける辻原保を本木、辻原の活動に共感してインタビューに応じながらも、どこか謎を秘める九野和平を阿部が演じる。
SNSでは「真実の物語故の骨太で心に残る物語」「歴史の記録ではなく“命の息遣い”を聴く映画」「新たな切り口で原爆の悲惨さを教えてくれる」といった感想が寄せられている。失われていく被爆体験の記憶と残されるべき言葉のはざまで、「伝える」とは何かを問いかける作品だ。
鼎談の冒頭では、本木と柴田監督がNHKドラマ『坂の上の雲』以来15年ぶり、本木と阿部が映画『トキワ荘の青春』以来30年ぶりにタッグを組んだことが話題に。本木は今回の再会を「奇跡」という言葉で喜んだ。
脚本への称賛と被爆者の肉声
本作は、伊藤氏の著書『未来からの遺言-ある被爆者体験の伝記』を原案にしたフィクション。柴田監督は原案について、被爆者の声を集める中で伊藤氏が考えたことや、被爆体験を記録する意味、真実を伝えることの大切さと難しさについての「思考と葛藤の記録」だと説明する。
それをドラマへ落とし込むことについて「想像を絶する難しさがあったと思うが、さすがは池端さん」と、『復讐するは我にあり』『楢山節考』、NHK大河ドラマ『太平記』『麒麟がくる』などを手掛けてきた池端俊策の脚本を称賛した。
阿部は初めて脚本を受け取った際、「あまり読んだことのない台本でしたし、こういったテープを集めている人がいることもまったく知らなかったのでショックを受けました。資料で頂いたテープの声がリアルすぎて…」と感じたという。
これに本木も「肉声の持つ声の迫り方って、本当にすごいですよね。映像とか文字では伝わらないものが迫ってくる」と同意。劇中では伊藤氏が実際に集めた被爆者の肉声テープも使用されており、当時の記憶を語る声がフィクションの枠を超えた力を作品にもたらしている。
映像表現の「あわい」と阿部の黙読
映像表現にも、作品のテーマが反映されている。本木が「この作品って、カメラの覗き方の不思議なアングル、照明が滲んでいるような光でしたよね」と指摘すると、柴田監督は「どこまでが真実で、どこまでが真実ではないのかを探っていくストーリー」と説明。映像もストレートに捉えるのではなく、「全貌が見えたり見えなかったり、真実と真実じゃないものの間(あわい)のようなもの」が感じられるよう意識したという。
リアルさは美術にも追求され、九野が暮らすアパートの廊下は歩くと板が軋み、まっすぐに見えて微妙に歪んでいるというこだわりも。柴田監督は美術監督に対し「室内にももうちょっとこだわって欲しいんだけど(笑)」と冗談を交え、撮影現場を振り返った。
キャスティングについて柴田監督は、脚本が完成する前から「この役は本木さんと阿部さんしかいない、と決めていた」と明かす。『坂の上の雲』で本木と仕事をした際、一つ一つのことへ真摯かつ丁寧に向き合い、そこから自然な芝居が生まれる姿に感動し、「ぜひまた本木さんとご一緒したい」と思っていたという。
一方、阿部とはNHK大河ドラマ『平清盛』で仕事を経験。当時、阿部演じる信西が長い中国語のセリフを話す場面があり、「これはいくらなんでも難しいんじゃないか」と心配していたものの、阿部がさらりと自然に演じたことから「この人、とんでもないなと(笑)」と驚いたことを振り返った。
すると、普段は声を出さずにセリフを覚えるという阿部のスタイルを知る本木が、「中国語も黙読で覚えたんですか!?」と反応。「黙読で覚えるのが信じられない! 絶対にどこかの時点でコントロールしていくために声を発して確認したいと思うんですけど、それをほとんどなさらないし、スタジオでも他愛の話をしているのに、本番で呼ばれたらパッと(役に入る)」と、その切り替えの速さにも驚きを示す。
さらに「そのシステムの謎を教えて欲しい!」と阿部に迫るなど、戦争の記憶を扱う作品について真剣に語る一方で、3人のクロストークは笑いにも包まれた。
石橋静河への熱弁と作品への思い
本作には本木、阿部に加え、石橋静河、伊東蒼、尾野真千子、田中哲司らが出演。中でも、本木演じる辻原がアルバイトするキャバレーで働く立花ミヤ子役の石橋について、本木が熱弁する場面もあった。
石橋とは今回が初共演だったという本木は「ファンになっちゃいました」と告白。それまでは映像を通して「いい意味でのたくましさ」を感じていたそうだが、実際に共演すると「すごく可憐で、でもスッとしていて、とにかく骨格も含めてきれい」と印象が変わったという。
そして「人間離れしている美しさがあって、ちょっと引いちゃいました」とユニークに絶賛。柴田監督も「光が出ているようでしたね」と共感し、石橋自身も戦争を扱った作品への出演を希望していたとして、「実現してよかった」と語った。
最後には3人が作品への思いを改めて語った。本木は、もともとテレビドラマとして制作された作品であることに触れながら、劇場版では「大画面ですべての声、息遣い、あらゆるニュアンスを体感できる」と劇場で見る意味を強調。
阿部は「戦争を扱った映画の中でも切り口が珍しい、なかなか無いタイプのもの」とした上で、「ぜひ観て頂いて、これからの人たちにどう伝えていくのかを考えて頂きたいです」と呼びかけた。
柴田監督も、被爆体験を集めるジャーナリスト自身が、その行為について葛藤する作品だと説明。「戦後80年以上が経って、戦争の記憶がどんどん無くなる今、新しく、面白い切り口じゃないかと思っています」とメッセージを送った。
【編集部MEMO】 本木雅弘は、1965年12月21日生まれ、埼玉県出身。俳優。映画やドラマを中心に活動し、『おくりびと』『永い言い訳』、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』などに出演している。阿部サダヲは、1970年4月23日生まれ、千葉県出身。1992年から「大人計画」に参加し、舞台『冬の皮』でデビュー。映画『舞妓Haaaan!!!』『死刑にいたる病』『シャイロックの子供たち』などで日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。パンクコントバンド「グループ魂」では“破壊”名義でボーカルを務める。



