「東京に家が建つお金をつぎ込んだ」――そう語るのは、ビートルズ一筋62年の75歳、岡本さんだ。彼が私財を投じて2016年に開設した私設博物館「ビートルズ文化博物館<サロン・ド・グラスオニオン>」は、2万点を超えるコレクションを展示し、多くのファンを魅了している。
病床から生まれた博物館構想
岡本さんは病気を患い、医師から「あなたのコレクションで赤穂を元気にしてくれませんか?」と声をかけられたことが転機となった。仲間とともに夢へ向かう中で、みるみる元気を取り戻したという。物件探しでは、1階の前面にシャッターが降りた2階建ての古い商家に直感で惹かれた。太陽光が入らない東向きという点も決め手だった。写真や書籍など、日焼けに弱い貴重な紙ものを守るためだ。「ビートルズと古民家、一見ミスマッチですよね。でもビートルズの音楽には、どこか懐かしく、日本人の琴線に触れる民謡のような普遍性がある。木と土の温もりがある空間こそ、彼らの音楽を聴くのにふさわしい場所じゃないかと思ったんですよ」と岡本さんは語る。
コレクションへの一貫した姿勢
博物館に展示された2万点を超えるコレクションは、岡本さんが半世紀以上かけて集めたものだ。その総額は「東京・三鷹に一軒家が建つ」ほどに上る。コレクションへの基本姿勢は、「ビートルズのファンでいたい。ビートルズの商品で商売はしたくない」というもの。かつて公式グッズが高額転売されている様子を見て強い違和感を覚え、「ビートルズの音楽と精神を次世代に伝える」姿勢へと完全に一貫していった。岡本さんは「コレクションの一つひとつはビートルズの背景を語る手段に過ぎず、その価値は金銭の額では測れない」と強調する。
英国女性から託された宝物
岡本さんにとっての「超貴重なコレクション」とは、1996年頃、英国リバプールで開催される祭典「インターナショナル・ビートルウィーク」で手に入れたある宝物だ。当時すでに博物館構想を抱いていた岡本さんは、「日本でビートルズ博物館のようなものをつくり、世界中からコレクションを集め、私の死後も残すつもりだ」という趣旨を英語で書いたチラシを携えて現地へ渡った。そこで出会った一人のイギリス人女性が、1963〜1964年当時の雑誌の切り抜きを保存したスクラップブックを2冊持っていた。事情があって手放さざるを得ないが、どうしてもお金には換えたくないという。岡本さんがチラシを見せ、たどたどしい英語でビートルズへの情熱を伝えると、彼女は「あなたなら」とその宝物を無償で託してくれた。このスクラップブックは、ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインが作ったファンクラブ公式グッズであり、4人のリアルタイムの動向を知る一級の歴史的資料だという。
「僕の代で終わらせるつもりはない」
岡本さんは「僕の代で終わらせるつもりはない」と語り、博物館を次世代に引き継ぐ意思を示している。ビートルズの音楽と精神を後世に伝えるため、その「推し活」は今も続いている。



