16日にフジテレビで放送される「第35回FNSドキュメンタリー大賞」ノミネート作品『あるふたり、』(27:00~ ※関東ローカル、石川テレビ制作)は、15年以上ともに生きる岡田千央美さんと小室礼子さんの日常を通して、“普通”とは何かを問いかける。
金沢市で飲食店を営むトランスジェンダーの岡田さん
金沢市で飲食店を営む岡田千央美さん(41)は、出生時に割り当てられた性別は女性で、性自認は男性のトランスジェンダー。パートナーの小室礼子さん(41)と一緒に暮らしている。
幼少期から自分の性別に違和感があった岡田さん。店をオープンした当初は、客からの何気ない言葉に傷つくこともあったが、小室さんの後押しを受け、女性らしい外見を変えることを決意した。8年前には胸の摘出手術を受け、現在も定期的に男性ホルモンの注射を打っている。
2人の関係は双方の家族にも認められ、家族ぐるみで食事をする間柄。岡田さんの父・良治さんは、フランス留学時代に自身も女装した経験があり、岡田さんのカミングアウトを自然に受け止めたという。一方、母・和子さんには「自分の育て方が悪かったのか」と悩んだ時期もあった。
パートナーシップ制度第1号も、結婚との隔たり
SNSをきっかけに出会った岡田さんと小室さんは、15年以上にわたって人生をともにしてきた。
2021年、金沢市がパートナーシップ宣誓制度を導入すると、その第1号カップルに。2人の関係が公に認められた初めての経験だったが、生活を続ける中で、次第に結婚という“国に認められた関係”との違いを意識するようになっていく。
戸籍上は同性同士である2人。日本では同性婚が認められていないため、法律上の婚姻関係を結ぶことはできない。
社会では性的マイノリティーをめぐる理解や制度が変化し、同性カップルの結婚をめぐる訴訟でも司法判断が積み重ねられてきた。その一方で、パートナーシップ制度と法律婚との間には依然として隔たりがある。
そんな中、最高裁が性別の取り扱いをめぐって新たな司法判断を示したことをきっかけに、岡田さんと小室さんの人生も大きく動き始める。
「私が抱いていたイメージこそが偏見だった」
石川テレビ報道制作部の犬塚敦也ディレクターが取材したのは、ニュースなどで声を上げて活動する当事者ではなく、ごく日常を生きる2人だった。
犬塚氏は「ニュースでよく取り上げられる“声を上げて闘う当事者”ではない二人を取材したのは、当事者が特別な人たちではなく、自分たちの周りにいる“普通の人たち”であることを感じてほしかったからです」と説明する。
取材を始めた当初は、地域性などから、2人にも何らかの生きづらさがあるのではないかと考えていたという。
しかし、取材を重ねる中で目にしたのは、長い時間をともに過ごし、家族にも囲まれながら暮らす2人の穏やかな姿だった。
「取材を重ねるうちに2人の幸せそうな関係性が見えてきて、マジョリティー側にいる私が抱いていたイメージこそが偏見だったと気付かされました」(犬塚氏)
番組が描くのは、性的マイノリティーをめぐる制度だけではない。好きな人と暮らし、仕事をし、家族と食卓を囲む――多くの人が“普通”だと感じる日常を、2人も同じように生きている。
犬塚氏は「多くの人に考えてもらいたいのは、“自分の家族や周りの人が当事者だったら”ということです」と呼びかける。
そして、「マイノリティーでありながらも、自分たちにとっての普通を貫く二人の生き方が、自分に正直であることが簡単とは言えない時代を生きる私たちに問いかけるものがあるかもしれません」と話した。
誰かにとっての“普通”が、別の誰かにとっては簡単に手に入らないこともある。『あるふたり、』は、岡田さんと小室さんの日常を通して、自分らしく生きること、そして社会が考える“普通”の輪郭を問い直していく。