浜松市天竜区の山々で罠猟により鳥獣や川魚を生け捕りにし、経営する寿司割烹「竹染」でジビエ料理を提供する「伝説のジビエハンター」こと片桐邦雄さん(75)。大自然を謳歌した幼少期の記憶に突き動かされ、「天竜の恵みを多くの人に届けたい」と意気込む。
幼少期から自然と親しむ
片桐さんは同区の山あいで8人きょうだいの末っ子として生まれた。家の近くには1級河川の天竜川があり、川漁が趣味の父と兄の影響で物心ついた頃からアユやウナギを取っていた。山でウサギや鳥を捕まえて家族で食卓を囲むこともあった。
ウナギの稚魚を取った際には「少しでも家の支えになれば」とトラックで浜名湖の養鰻業者のもとに運んで売った。稼ぎは生活費に充てたが、残った金で顕微鏡を買って微生物や花粉などの観察を楽しんだ。「昔から生き物が好きだった」と振り返る。
天竜で店を構えるまで
中学卒業後は「手に職をつけたい」と富士宮市の割烹旅館や寿司店で働き、資金をためて17歳頃に姉と一緒に同市内で開業した。せわしない日々を過ごす中、趣味の猟で山に入ると自然を駆け巡った子ども時代の記憶が鮮やかによみがえり、「やっぱり天竜で店を構えたいな」と思い至った。
20歳代半ばで念願の天竜に現在の店を構えた。好景気の勢いで繁盛したが、その後のリーマン・ショックや大型スーパー、回転寿司の台頭などで客足は遠のいた。店の先行きを考えていた時、幼少期に頬張ったジビエの味がふと思い浮かんだ。しかし、銃で仕留めたイノシシやシカの肉には獣臭さが残っていた。
命を大切にする猟と料理
「自然の命を頂く限り、最もおいしい食材にしないと申し訳ない」と思うようになった片桐さんは、一人で山に入り罠を仕掛けて生け捕りにし、解体小屋で処理する。暴れる時には目隠しをし、落ち着いたところで仕留める。手間はかかるが、臭みが消えて肉のうまみを引き出せるようになった。すると、ジビエブームの波にも乗って店の名は口コミやSNSで全国に広まった。「やっぱり獲物を大切にすることが大事だな」と語る。
日々山に入ると環境の変化を肌で感じる。佐久間ダムの影響で川の水は濁り、コケが減って水生生物の生息環境が悪化。CSF(豚熱=豚コレラ)の感染拡大でイノシシが減った一方で、シカは増加し、山のエサが不足して農作物への獣害が増えた。
来店客にはいつも「自然とともに生きることが大切だ」と伝えている。「自然の尊さを多くの人に届け、環境の復興につなげたい」と願い、これからも謙虚に自然と向き合い続ける。



