愛媛県今治市と大島の間を流れる来島海峡は、複雑で激しい潮の流れで知られる。幅約4キロの海域に島々が点在し、すり抜けた水がぶつかり合って「海が山のように盛り上がる」という壮大な光景が見られる。
遊覧船で体感する「狂う潮」
作家の宮田珠己さんは、その噂を確かめるため大潮の日に海へ出た。遊覧船からの眺めは、大きな渦や白波、「いきなりぶわっと体積が増したように膨れあがり」「重力に反して」持ち上がる海面と、迫力満点だったという。
大島で宮田さんと同じ急流観潮船「なかと」に乗ると、船長の小田治紀さん(60)が操船する。漁師時代も合わせて操船歴40年超のベテランで、波をかわすコツを「忍者のように」と笑顔で語る。船に窓や仕切りはなく、風や水しぶきが心地よい。乗客の歓声の先では、左舷で渦が巻いては消え、右舷では水面が川のように流れていた。
この海域は1日平均500隻が行き交う東西物流の要衝で、海上交通センターの管制官が24時間レーダーで航跡を追う。安全対策官の中尾洋平さん(36)によると、日に4度の転流時は特に緊張感が高まるという。海峡内の2本の航路は東西一方通行だが、潮の流れに伴って進行方向が逆転する。この規則は世界中で来島だけという。
世界初の三連吊り橋から望む絶景
翌日、世界初の三連吊り橋である来島海峡大橋を自転車で走り、約65メートルの高さから海を眺めた。美しい青の濃淡で潮の流れがはっきりと分かり、大小の渦が描く幾何学模様は壮大な抽象絵画のようだった。
今治は近年、サイクリストの聖地として国内外から注目されている。広島県尾道市との間を七つの橋で結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」(全長59.4キロ)の自転車道は2019年に国のナショナルサイクルルートに指定された。2年に1度国際大会が開かれ、今秋は8コース計7000人の参加を予定する。
今治市サイクルシティ推進課の渡部誠也さん(59)は「穏やかな海、壮大な橋、緑の島、山と変化に富んだ景観が楽しめる。ファンが随分増えました」と話す。JR今治駅前など両市の10か所にレンタサイクルのターミナルがあり、昨年度は17万人が利用した。その4割超が79の国・地域からの訪日客だという。
村上海賊の歴史とご当地グルメ
中世、瀬戸内海を支配した村上海賊は能島、来島、因島の3家から成る。大島の今治市村上海賊ミュージアムでは、能島村上家伝来の資料を中心に展示している。学芸員の松花菜摘さん(34)一押しは、能島城主・村上武吉と息子の景親が着たと伝わる猩々緋陣羽織で、深い赤が印象的だ。
今治のご当地グルメ「焼豚玉子飯」の元祖である「白楽天 今治本店」は、1970年の創業以来人気を誇る。2代目の関英輔さん(62)は「シンプルな料理だからこそ、卵の焼き加減などで味が全く変わってしまう」と語る。昨年登場した新メニュー「辛玉」(1050円)は、ラー油や唐辛子でピリ辛に仕上げ、地元・愛媛の砥部焼の器で提供される。



