ドイツで広がる日本のお菓子ブーム
海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第18回のテーマは、「ドイツで広がる日本の菓子」。
TikTokやYouTubeで検索すると、“Trying Japanese Snacks for the first time”といったリアクション動画が数多くヒットする。ティーンたちが日本のスナック菓子を紹介し、美味しそうに頬張る様子は、それ自体が一大コンテンツとして、ドイツのみならず世界中で拡散されている。日本に行ったら、ドイツ人の若者は必ずコンビニとドンキホーテに行くそうだ。
ドイツで広がる日本のお菓子ブームの背景
では、ドイツの若者の間ではどのようなお菓子が人気なのだろうか。しょっぱい系のお菓子ではポテトチップスやじゃがりこ、柿の種といった定番商品が非常に人気だ。複数のフレーバーをまとめて購入して食べ比べを楽しむのが定番のスタイルになっている。
甘いお菓子では、ポッキーやコアラのマーチといったチョコレート系が安定した人気を誇る。複数のフレーバーをまとめて購入し、食べ比べるのがドイツ人の若者の定番の楽しみ方だ。特に抹茶味のキットカットは、「日本らしさ」を象徴するフレーバーとして支持されている。キットカット「桜フレーバー」は見た目の淡いピンクが可愛らしいが、味はほぼホワイトチョコレート。抹茶ほどのインパクトはまだないようだ。
「日本のスーパーはお菓子売り場が充実している」と皆驚く。また、カントリーマアムのようなしっとり系クッキーは、ドイツでは珍しい食感だ。ハイチュウも種類の多さと手頃な価格から人気が高く、まとめ買いされる。ドイツではガム文化が強く、日本のようにのど飴や塩飴などを常備する習慣はあまり見かけない。キャラメルと言っても存在感は薄く、どちらかというとチョコに置き換わっている感じがある。だからこそ甘すぎず、大きすぎず、食感が絶妙でフルーティーなハイチュウはとても珍しいのだろう。
これら人気商品の多くの共通点は、小分けにパッケージされているところ。持ち運びやすく、友人とシェアしたり気軽に配ったりできる点にある。いずれも「移動しながら楽しめるお菓子」として受け入れられているようだ。誰かと一緒にお菓子を食べることを前提とした発想はいかにも日本らしい特徴とも言え、こうした点からも、お菓子が果たす文化的な役割の違いが垣間見えるのは非常に興味深い。
日本人にしか作れないパッケージデザイン、味と信頼感
日本のお菓子には、日本人のものづくりへの究極のこだわりが凝縮されていると思う。ドイツに来て気づいたことだが、日本のお菓子は「開けやすく」、また「手をできるだけ汚さずに綺麗に最後まで食べられる」など、細部にまでこだわりが行き届いている。ほんの小さなことに思えるだろうが、実はこんな配慮がドイツでは当たり前ではない。
味の繊細さとバリエーションの豊富さにかけては他には類を見ない。のりしお、抹茶、梅といった「うまみ」を意識した多様なフレーバーに加え、甘さ・塩味のバランスが絶妙だ。また、日本のお菓子は全体的に“軽い”。ドイツのお菓子がバターや砂糖の重さで風味や満足感を与えるのに対し、日本のお菓子は口どけや食感、後味の軽さによって、つい手が止まらなくなる中毒性を持っている。どちらが優れているという話ではない。ただ、西洋のお菓子が満足度を「足し算」で積み上げる発想だとすれば、日本のお菓子はむしろ「引き算」で成立しているように思える。余計なものを削ぎ落とした先に、最上のものができる。その設計思想の違いが、お菓子作りへの姿勢に現れているようである。
品質といった細部へのこだわりも魅力的だ。実物に近いサイズと見た目で描かれたパッケージによって商品のイメージが伝わりやすい。ドイツ人が魅了されるわけは、こういった日本人にしか「見えない」細やかさや感性が活きているからであろう。さらに、日本のお菓子の一番の特徴として見逃せないのが、アニメとのコラボや“おまけ”の存在だ。限定のマスコットなどはドイツでは手に入らないため、それ自体が購入の大きな動機になる。日本のお菓子は、単なる食品ではなく「文化コンテンツ」として愛されている側面が強い。
驚愕の売れ筋、Mochiブーム
こうした流れの中で、今一番存在感を増しているのがMochi(大福)だ。ドイツだけでなく、このトレンドはヨーロッパで近年拡大している。イギリスやフランスのスーパーではすでに一般的に販売されており、Mochiアイスは冷凍コーナーの定番商品として定着している。中でも一口サイズで食べられる「Little Moons(一箱6個入り、内容量192g、価格は約6.99〜8.99ユーロ)」のようなブランドは、中身のアイスのカラフルな見た目と多彩なフレーバーで人気を集めている。小さくて見た目のカラフルさがいかにもTikTok「映え」する。
人気のフレーバーは、ヒマラヤン・ソルティッドキャラメル、宇治抹茶、ゆず&レモンの3種。シェフやパティシエを通じて広まったYuzuも、現在ではヨーロッパで定着しつつある。この背景には、「ギルティーフリー(罪悪感の少ない)」という価値観の広がりがある。Mochiは米粉を使用しているためグルテンフリーであり、比較的軽いデザートというイメージから、ヘルシーなスイーツとして受け入れられている。特に若い世代では、プラントベースやベジタリアン志向への関心が高まっており、そうしたライフスタイルとも親和性が高い。結果、Mochiは単なる流行を超え、「美味しいだけでなく、太りにくく、体にも優しいデザート」として、ヨーロッパで一つの大きな市場を作った。
お菓子を食べることは「体験を共有すること」
そして何より重要なのは、それらが「共有される体験」であるという点だ。日本食が大好きなドイツの若者は、自宅で寿司パーティーや鍋パーティーをするのを好む。そのデザートにMochiやスナック菓子などが持ち込まれる。友人と一緒に買い出しに行き、料理し、そしてお菓子を開けて食べること自体が大イベントになる。新商品・新しいフレーバーが販売されると話題になりやすく、人づてに美味しいと聞けば、自分も買いたくなる。SNSで見たものを実際に試し、その感想は瞬時に誰かと共有される。
日本のお菓子はドイツで、決して安くはない。気軽に日常的に購入できないプチぜいたく品だからこそ、じっくり選んだ美味しいものを誰かと深く味わいたいのだ。日本のお菓子は今や、単なる嗜好品で終わらず、好きな人と共有したくなる“コミュニケーションツール”として機能している。



