1月の成人の日に合わせて各地で行われる二十歳を祝う式典。そこで女性たちが着る振り袖選びが早期化し、高校生のうちに契約するケースが多い。業者の「囲い込み」の背景には、和装市場の縮小や少子化がある。
高校3年生の夏に契約、2年半後の式典に向け
振り袖市場が活発化する夏。神戸市内で開かれた展示会には、案内状を手にした高校3年生の女性(18)と母親の姿があった。女性はお気に入りの柄を見つけ、2年半後の式典に向けレンタル契約を結んだ。「高2の秋ごろからSNSで『振り袖選びは急いだほうがいい』という情報を目にして焦っていた」とホッとした様子。母親も「受験が本格化する前に決まってよかった。着物は、はやりすたりが緩やかなので大丈夫だと思う」と話した。
市場縮小が早期化を加速
着物業界専門誌「ステータスマーケティング」を発行する「きものと宝飾社」の清水和代表によると、かつて振り袖探しは高校卒業後が多かったが、「2000年代半ばごろから各社のPR合戦が徐々に活発化し、ここ数年で契約の早期化が主流になった」という。業者が高校の卒業アルバムの住所録をもとにセールスしていたことも一因だ。社会的に個人情報の保護意識が高まり卒アルから住所録が消えていくと、名簿業者が持つ広範な情報をもとにしたセールスやSNSでの集客に切り替わったとみられ、競争が過熱。高校生のうちに囲い込む動きが強まったようだ。
背景にあるのは、市場の縮小。総務省の家計調査によると、1世帯当たりの年間和服購入額は昭和57年の2万2607円を頂点に減少が続く。同社の調査でも、小売市場は昭和50年代半ばの1兆8000億円をピークに令和6年度は2400億円に下落。和装離れが進む中、主要品目中の売り上げの26%を占める振り袖の存在感は大きい。
着付けが午前2時に、パッケージ化も要因
和装市場に詳しい神戸大大学院の吉田満梨教授(商学)は、「振り袖専門のレンタル業者や、写真スタジオなどの新規参入が増えたことで競争が激化し、早期化が加速している」と語り、さらに「パッケージ化」も要因に挙げる。「着付けやヘアメーク、写真撮影などがセットになったサービスが特定の日に集中することもその一つ」
全国で振り袖や袴のレンタル・販売を手掛ける「キモノハーツ」(福岡市)では、高校生は当日の着付けや前撮りアルバム、さらに高3の8月末までの契約で高校卒業の記念撮影が無料になる特典があり、半数が高校生のうちに契約している。また、今年5月の段階で、来年1月の着付けが午前2時の案内となる地域があったという。広報担当者は「枠が限られる当日の着付け時間の確保と、選択肢の多い中で理想の振り袖に出合ってもらうため早期契約をお勧めしている。遅くとも、大学1年の春休みまでに決めていただければ」と話した。
吉田教授は「振り袖商戦の早期化には、消費者が情報収集や十分な選択肢を持てないなどさまざまな課題はある」と指摘する。ただ、親が娘に資産としての振り袖を持たせた時代も今は昔。昨今の若者にとっては、SNS映えの体験やファッションとしての意味を持っている。吉田教授は「二十歳の女性が一斉に振り袖を身に着けるこの機会が、市場全体の活性化や着物文化継承につながるものとなってほしい」と語った。



