演出家・蜷川幸雄の没後10年を迎えた今年、蜷川と深い関わりのあった劇作家・清水邦夫の名作「夢去りて、オルフェ」が21日から東京芸術劇場で上演されている。演出は蜷川の元助手・大河内直子、主演は蜷川創設の演劇集団出身の大石継太と元宝塚歌劇団の朝海ひかる。関係者に意気込みを聞いた。
清水邦夫の戯曲と蜷川の教え
清水は1960年代から蜷川と組み、「タンゴ・冬の終わりに」など虚構と現実の間を漂う美しい戯曲を書いた。大河内は蜷川が明かした執筆時の話を忘れられない。清水が夜中に声を上げ、頭をたたいて言葉をつむぎだそうとしていたという。「台本は作家が苦闘苦悶してできあがったのだから一言一句違えるなと蜷川さんに言われた。私が演出を始めた時の鍵になりました」と振り返る。
大石は「95kgと97kgのあいだ」「血の婚礼」など蜷川演出の清水作品に出演した。「セリフが詩的で美しい。『チロチロ』とか『きりきり』とか擬音が出てきたり、においが感じられたり……一つのセンテンスから色んな世界に連れて行ってもらえます」と話す。
昭和14年の遊園地跡を舞台に
「夢去りて、オルフェ」は、清水が主宰した演劇企画グループ・木冬社のために86年に書いた。ドラマは昭和14年の北陸にある遊園地の焼け跡で展開する。2・26事件で刑死した北一輝の生存を信じる国語教師の一機(大石)の不倫の恋から発した波紋が、妹のぎん(朝海)ら周囲の人々に広がっていく。大河内は「夢を託した人が去って、夢の終わりを生きている男の物語。そこに男女の恋や戦争に進む日本などいろんな要素が入っています」と語る。
一機は出征中の軍人の妻との不倫がバレそうになり、姦通罪を恐れて東京から俳優のぎんを呼んで大芝居を打つ。朝海は「ぎんは自立した素敵な女性です。人が好きで姉御肌な部分もあって、頼られたら文句は言うけど、その人のために行動するんでしょう」と語る。
狂気と日常の間で
ぎんと一機の歯に衣着せぬ会話で喜劇にも見えるが、何が真実か不確かになり、一機を巡る状況も緊迫する。大石は「一機はつかみどころがない」と話す。「考えていることが分からないのは、狂気と日常を行ったり来たりしているからでは。そんな狂気を僕の中で探しているところです」
芝居を組み立てる時、穏やかな大河内は頼りになる。大石は「蜷川スピリットを受け継いでいると思いますが、唯一の違いは怖くないことです」と笑う。朝海は「直子さんの舞台はいつも美しい。役者へのきめ細かな配慮があるので自由にトライをさせてもらってます」と話す。大河内は「俳優がいちばん演じる役のことを分かっています。のびのび芝居している時が美しい。意識せずに自由になれる空間を作りたいと思っています」とほほ笑んだ。
30日まで東京芸術劇場で上演。加納幸和、平体まひろらも出演。問い合わせはメール(info@ae-on.co.jp)で。



