ヨーロッパの大河沿いに発達した都市には、歴史的建築と水辺の景観が静かに調和する独特の美しさがある。高い堤防が街と川を隔てる光景は少なく、名画を思わせる情趣が人々の日常に息づいている。本書『図解 まちをリノベーションする治水デザイン』(二井昭佳・岡田一天著、学芸出版社・2970円)は、ドイツ、スイス、オーストリアの15都市を調査した日本の研究者が、ライン川やドナウ川、その支流の河畔都市で「美観と治水」が両立している謎を解く旅の報告書として読める内容だ。
欧州の都市も氾濫を経験
大陸河川は勾配が緩やかなので浸水被害が少ないのではないか、と考える人もいるだろうが、それは違う。欧州の都市も幾度となく河川の氾濫に見舞われ、その経験を重ねる中で、治水のあり方を模索してきたのだ。
各地で用いられている有力な手法の一つが「可搬式堤防」である。この組み立て式の堤防は増水時にのみ設置されるので、普段の川辺には眺望や人の往来を妨げる構造物がない。各都市で美観を守りながら水害を抑える手段になっている。石造りの建物の外壁を堤防代わりに用いる例もある。
氾濫を許容する治水哲学
本書は治水の多様な最適解を示す事例集だ。とりわけ示唆に富むのは、氾濫を一律に治水の失敗とは見なさない姿勢である。日本では堤防で川を封じ込めることが当然視され、氾濫は直ちに敗北とされがちだ。だが、欧州には流路から溢れる場所を前もって定め、重要な市街地を守る都市が少なくない。
河川の氾濫を力で抑えるのではなく、その性質を読み、都市の営みと折り合わせる治水哲学だ。日本でも近年、流域治水が重視されつつあるが、防災と都市景観、水辺の憩いを一体として考える取り組みは、なお道半ばであろう。
視覚的理解を促す構成
本書には現地の景観写真と治水施設の構造図などが数多く配され、複雑な仕組みを視覚的に理解できるよう工夫されている。豪雨災害への備えが切迫する今日、治水や都市計画の専門家だけでなく、水辺の未来を考える市民にも有用度が高い。



