Adoの楽曲や“地雷系”ファッションなど、近年若年層の間で“ポップ×ダーク”な感性が存在感を増している。明るく親しみやすい「ポップ」と不穏さや毒気が漂う「ダーク」という相反する要素を掛け合わせた表現は以前からあったが、今改めて若者の心をつかんでいる。デジタルクリエイター・寺田てら氏にその背景を聞いた。
「可愛い」「ポップ」だけでは埋もれる時代
Ado「阿修羅ちゃん」やナナヲアカリ「ダダダダ天使」のMVイラストで知られる寺田氏。ビビッドな色彩と不気味さを感じさせるモチーフを掛け合わせた作風はSNSを中心に浸透し、ヨウジヤマモトやanna sui nycなどファッションブランドとのコラボも相次ぐ。
その原点は子ども時代のインターネットカルチャーにあるという。小学校4年生からネット文化に触れ、当時流行していた作品よりも“アンチ大衆”ともいえるサブカルチャーに惹かれた。「表現面でもテーマ面でも、そうした世界観に影響を受けながら絵を描いてきました」
では、なぜ今の若者が“ポップさと影が共存する表現”に惹かれるのか。寺田氏は「違和感」という要素が背景にあるとみる。「タイムライン主流のプラットフォームが増え、今は身近にエンタメがあふれています。日々大量のコンテンツが流れる中で、ただポップや可愛いだけのものは埋もれてしまう。目に留まるのは少し引っ掛かりがあるもの。“なんだこれ?”と思う違和感があると一瞬でも立ち止まる。そのわずかなアクセントが記憶に残るかどうかを左右していると感じます。私自身も色の組み合わせやモチーフで『カワイイけれど、なんだかちょっと変』という奇妙さを意識しています」
7月18日発売の液晶トイ『PixTube』に寺田氏を起用したタカラトミーの企画開発担当・冨樫宝子氏も「単に可愛いだけでは今の子どもたちには届きにくくなっている」と話す。「現代の子どもたちは情報社会の中で育ち、昔に比べてずっとリアルな感覚を持つようになっています。プリンセス像も王子様を待つ存在ではなく自立したキャラクターが描かれるようになりました。今の子どもたちは昔ながらの可愛いだけでは物足りなさを感じることもある。『世の中そんなに甘くないよね』という感覚を子どもなりに理解している。だから少しリアルで少しダークさがあるもののほうが共感されているのではないでしょうか」
「考察文化」と紐づくティーンの嗜好
若年層が“ポップ×ダーク”に何を求めているのか。寺田氏はティーン世代とそれ以下の世代では違いがあるとみる。「ティーンの子たちは自分の“好き”をある程度理解したうえで、もう少し変わったものや自分だけの好みを探しているように感じます」
こうした少し変わったものへの興味が、ポップさの中にダークさや違和感を入れた表現への関心につながっている。さらに寺田氏は最近の「考察文化」とのつながりにも注目する。「今流行している海外のホラーゲームの中には、ストーリーの随所に考察要素が組み込まれている作品がたくさんあります。ただ面白いだけでなく自分で考えられる“余白”があることが、今のティーンにとっての魅力になっています」
“ポップ×ダーク”の表現も「考察して楽しむ」体験と重なっているという。寺田氏は自身が手がけたAdo「阿修羅ちゃん」のMVでもその傾向を強く感じたと振り返る。「MVの意味や『なぜこの動きをするのか』『なぜこの歌詞なのか』といった点に興味を持つ人がとても多いと感じました。その解釈がSNSで共有されてさらに広がっていく。考えてシェアすること自体が今のティーンのコミュニケーションになっています」
キッズが求める「ひと癖」と超デジタルネイティブの感性
一方、ティーンより低年齢のキッズ世代が求めるものは異なる。寺田氏は「赤ちゃんの頃からデジタル機器に囲まれて育った世代なので、まずは理屈抜きで感覚的に『面白そう』と思えることが大切」と話す。
この「感覚的なフック」を意識したアプローチは、寺田氏がイラストやキャラクターデザインを手がけた液晶トイ『PixTube』にも反映されている。「小学生向けなのでダークな要素はかなり抑えていますが、それでも『カワイイだけ』にはしませんでした。『違和感』と呼ぶほど強くはないものの、色使いや髪型などに少しだけ“ひと癖”を加えることで、子どもたちの直感に引っかかる要素を意識しています」
『PixTube』はレバー操作に合わせて液晶画面内のキャラクターがチューブの中を駆け巡り、お世話やミニゲームが楽しめる玩具。デジタルとアナログの遊びを掛け合わせた新感覚の液晶トイとして展開され、寺田氏描き下ろしによる20種類以上の個性的なキャラクターが登場する。
メーカー側もこうした子どもたちの目に留まる「直感的なフック」を求めて寺田氏を起用したという。タカラトミーの冨樫氏は「今の子どもたちに響くものを考えたとき、デジタル的な世界観との親和性が高く、ひと目で印象に残る寺田さんの独自の色彩感覚が決め手になった」と振り返る。さらに「デジタルの楽しさに加え、レバーを動かすアナログな体験を組み合わせることで、今の子どもたちが求める『新しい驚き』を届けたかった」と開発の狙いを語る。
膨大な情報やコンテンツに囲まれて育つ“超デジタルネイティブ世代”。ありきたりな表現では心が動きにくい彼らにとって、「少し違う」「少し気になる」という感覚は興味を引きつける大切な入り口になっている。ティーン世代は自分で深掘りできる「考察要素(違和感)」を求め、キッズ世代は直感的にワクワクできる「感覚的なフック(ひと癖)」を求める。世代によって受け取り方は異なっても、その根底にあるのは「ありきたりではない意外性」だ。異なる要素をあえて掛け合わせることで生まれる新しい魅力の中にこそ、新世代の感性を動かすヒントが隠されているのかもしれない。



