元小学校教員で子育てコーチの潮田学氏は、著書『「あなたのため」をやめましょう 親のエゴを手放せば子どもは動き出す』(KADOKAWA)の中で、親子のコミュニケーションがうまくいかないケースを紹介している。その一例として、Mさんのエピソードが挙げられている。
「静かにしなさい」と怒鳴っては自己嫌悪に陥るMさん
Mさんの子どもは非常にエネルギッシュで、思ったことをすぐに口にし、嬉しくなると声が大きくなる。興味を持ったことには一直線で、その場の空気よりも「やりたい!」を優先する、いつも目立つ存在だった。Mさんはそんな我が子を見るたびに、「目立たないでほしい」「少しは周りを見てほしい」「変に思われるのではないか」とハラハラし、つい「落ち着きなさい!」「静かにしなさい!」「ちゃんと周りを見なさい!」と強い口調で叱ってしまっていた。
言った後にはいつも自己嫌悪に陥り、苦しくなった。本当は子どもを否定したいわけではなく、もっと受け止めてあげたい、安心できる言葉をかけてあげたいと思っているのに、どうしてもイライラしてしまう。怒鳴り散らす自分に嫌気がさし、Mさんは潮田氏のもとに相談に訪れた。
背景にある「周りの評価」を重視する価値観
潮田氏がMさんの話を詳しく聞くと、その背景には「周りと違うと生きづらくなる」「目立たないでいることが安心だ」「人からどう思われるかが大切だ」という信念・価値観があることがわかった。さらに、その価値観を生み出したのは、Mさん自身の幼少期の体験だった。Mさんは幼い頃から親に「なんでそんなこともできないの」「もっとちゃんとしなさい」「○○ちゃんはできるのに」と、否定的な言葉をたくさんかけられてきた。周りの子と比べられ、評価され、正され続けるうちに、「自分が自分でいてはいけない」「存在してはいけない」という感覚が無意識に根付いてしまった。自分の感覚よりも周りの評価、自分の気持ちよりも周りがどう思うかが、いつの間にか自分の価値を決める基準になっていた。
「落ち着きなさい」から「今、どんな気持ち?」への転換
潮田氏は、Mさんのようなケースでは、まず親自身が自分の信念・価値観に気づくことが重要だと指摘する。子どもを「普通」に育てようと必死になるあまり、親のエゴを押し付けていないか、自己点検する必要がある。Mさんはこの気づきをきっかけに、子どもへの声かけを「落ち着きなさい」から「今、どんな気持ち?」に変えていった。すると、子どもは自分の感情を言葉で表現するようになり、親子関係が改善されたという。
潮田氏は「親が『あなたのため』と思って言っていることが、実は親自身の不安や価値観に基づくコントロールになっていることが多い。それを手放すことで、子どもはのびのびと成長できる」と述べている。



