西成の「メダデ教会」牧師・西田好子、波乱の半生と信徒への愛
西成のメダデ教会牧師、波乱の半生と信徒への愛

大阪市西成区の釜ヶ崎(あいりん地区)にほど近い路地裏に、「メダデ教会」がある。外観はひなびたラーメン屋そのもの。引き戸を開けると、小柄な女性、牧師の西田好子さん(68)が出迎える。ここに住居を兼ねた教会を構えて7年近くになる。

「メダデ」は旧約聖書に出てくる人物の名前で、「愛があふれる」という意味があるという。元は中華料理屋だった建物で、床が抜けているところもあると西田さんは話す。

波乱の半生と清貧生活

西田さんは学校の教師を辞め、50歳から関西学院大で学んで牧師になり、60歳で西成に来た。この20年、パンの耳を食べ続けているという。風呂にはほとんど入らず、毎日ポットの湯で体を拭いていると話す。

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礼拝時間になると約20人の男が集まる。パイプ椅子と長机を並べた礼拝堂で、西田さんは信徒をあけすけに紹介する。「このおっちゃんは酒の飲み過ぎで嫁と娘に逃げられましてん。そっちは、暴力事件で何回か刑務所入ってた。その男は元ヤクザ。こっちの若い子は、ろくに学校も通わしてもらってなくて、九九も分からへん」と。

信徒は全員、西成のアオカン(野宿)経験者だという。「脳梗塞、認知症、アルコール依存症……。ありとあらゆる病がここにある。家族にも捨てられてな。酒、たばこ、女、ギャンブル、大好きや。めっちゃ弱い人間やねん。それでも今は前向いて生きてるんや」と西田さんは語る。

釜ヶ崎での伝道と炊き出し

別の日、西田さんは釜ヶ崎の真ん中にある通称・四角公園で伝道礼拝を行った。信徒たちがパイプ椅子を並べた公園に、100人弱の生活困窮者が集まった。お目当ては、西田さんが最後に振る舞う炊き出しだ。

かつて「労働者の街」として知られた釜ヶ崎は現在、不況と高齢化で「福祉の街」に変容した。地区住民約2万人の4割超を生活保護受給者が占める。西田さんはそんな彼らを挑発するように説教する。「あんたら、ずっと炊き出しに並んでるやろ。酒やギャンブルで生活保護費を湯水のように使うて、なくなったら炊き出し? 西成が貧しいのではありません。心が貧しいねん。あんたら、生きる力を、どんどん失ってるんや」と。

説教中には「事情があるねん」「キリスト教がなんぼのもんや」とヤジも飛ぶが、西田さんは動じない。「こんな生活のどこに夢や希望があるんや。そんなん捨てた? そう嘯いてるあんたでも、神だけは心配してくれてはる。メダデ教会の信徒も以前は、同じ生きざまやったんや」と語りかける。

1時間に及ぶ説教が終わっても、眠り込んだままの人や、終わり間際に来て炊き出しだけをかき込む人も多い。それでも西田さんはめげず、「私には夢がある。西成で、みんなでハレルヤと歌いたいんや。一度捨てた人生をもう一度、新しく生きるんや」と話す。

信徒との日常と試練

西田さんの朝は早い。起床は午前1時。聖書の勉強や雑務を終え、午前4時前には自転車で釜ヶ崎へ向かう。アパートに住む信徒と合流し、「激安」で有名な24時間スーパーへ。目当ては1個39円、1人2個限定の茶わん蒸しだ。「地元では半額、割引、見切り品の教会で有名ですわ。私も一緒に食べるで。牧師がええもん食うてたら、誰もついてこんがね」と話す。

日中は信徒の病院への付き添いやトラブルの後処理に追われる。水、金、日曜は祈りの日で、信徒と賛美歌を歌い、聖書を学ぶ。聖書は信徒の境遇を踏まえた「西田語」に翻訳して説く。

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とりわけ手を焼いた信徒に、マツオカ(仮名)という男性がいた。昨秋、路上で泥酔しているところを西田さんが見つけ、声をかけた。1週間ほどかけてゼリーを食べられるようになり、病院で抗酒剤を飲んで酒をやめた。しかしある日失踪し、警察に保護された。連れ帰った翌朝、再びいなくなり、路上で寝ているところを信徒が見つけた。西田さんは怒ったが、酔ったマツオカには届かず、うわごとのように「すんません、すんません」と繰り返すばかりだった。

メダデ教会は酒、たばこ、ギャンブルを厳禁としており、禁欲的な生活に嫌気がさし、昨年だけで8人が姿を消した。西田さんが肩代わりした生活費は返ってこない。マツオカも昨年のクリスマスを前にいなくなり、今どこで何をしているのか分からない。

西田さんは「私、だまされやすいねん。めっちゃだまされる。『次は心入れ替えて頑張ります』『ほうか』いうて金貸して、またトンコ(逃亡)や。めっちゃ損してるで」と苦笑する。教会の懐事情は厳しく、西田さんの貯金と年金、わずかな寄付金でやりくりしている。周囲は「親身すぎる」と気をもむが、改める気はない。「愛やからや。こいつ嫌やなという人間でも、普通の人間より愛を持って手を差しのべやなアカンのよ」と話す。

昨年暮れの真冬、西田さんと信徒たちは野宿者におにぎりと缶コーヒーを配っていた。道端にいた81歳の男性「モト」は、所持金800円で、「ここで寝よと思ったけど、寒いんや」と話した。数年前に妻を亡くして生活が荒れ、家賃滞納で追い出されたようだ。事情を把握すると、西田さんは「うちの子にならへんか」と声をかけた。男性は現在、西田さんが紹介したアパートに住み、礼拝にも顔を出す。

西田さんは初対面でもどんどん話しかける「厚かましさ」があり、時に危険を伴う。「神に祈って何になるねん」「現実と理想は違うんや」と絡んでくる野宿者も後を絶たないが、必ず反論する。「警察には危ないから場所変えたらどうですかって言われた。あかんねん、西成でないとダメ。地べたで寝そべる野宿者を立たせる使命がある。命を懸けるだけの仕事をさせてもろて感謝、感謝や」と語る。

釜ヶ崎ではキリスト教が野宿者支援の一端を担い、現在も複数の教会が活動している。この風変わりな牧師がどのようにして西成にたどり着いたのか、その物語は続く。