稔と真吉が出かけていき、事務所にはテツと日村だけが残っていた。日村は無口なほうだし、テツはさらに無口だ。テツはずっとパソコンに向かっているため、話しかけるきっかけもなく、事務所の中は沈黙が続いていた。電話も鳴らない。
不安と退屈の中での選択
いっそのこと、自分も出かけようかと日村は思ったが、テツを一人にするのは何だか不安だった。それに、いつ阿岐本からの呼び出しがあるかわからない。だから日村は、来客用のソファで週刊誌を読んでいた。
業界誌に映る別世界
暴力団の動向に詳しい二つの週刊誌を熟読していた。記事を読みながら、同業者ながらまるで別世界の話だと、日村は感じていた。大きな組織が割れたり、割れた組織同士で睨み合いをしたりと、まるでドラマか何かを見ているようだと思った。
日村は大きな組織の経験がない。ただ阿岐本に付き従うだけだ。だから、広域暴力団だの、本家だの、直参だのといった話には実感がない。だが、やはりその類のことを記事にする週刊誌を手に取ってしまう。それら二つの週刊誌は、日村の稼業では『業界誌』と呼ばれている。



