銀巴里の思い出 美輪明宏さんと学生時代の憧れ
銀巴里の思い出 美輪明宏さんと学生時代の憧れ

学生時代、私は銀巴里(ぎんぱり)に通った。フランス語を学びたくてシャンソンから入ろうと思ったのだ。うす暗い店内はコーヒーの香りが満ち、椅子席はひしめきあっていた。

薄物の衣装の女性やタキシードの男性が哀感をこめて歌ったあと、突然、照明が細身の美しい青年を浮かびあがらせた。店内に底力のある圧倒的な歌声が響く。ざっくりとした紺のセーターから伸びる白い喉の動きに私は息が止まりそうだった。丸山(美輪)明宏さんが手の届くところにいた。

友人とその興奮を鎮めかねて銀座通りを歩き続けた。友人とはいつも背伸びした会話ばかり。現実離れした若者だった。銀巴里のあとはよく近隣書店の洋書コーナーに行った。美術書や輸入されたばかりの絵本などは魅力があったが、貧しかった私たちには手が届かなかった。

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美輪さんの訃報とメッセージ

美輪さんの訃報を告げるテレビが「美しいものを見て美しいと思う心を忘れないで」とのメッセージを伝えた。あの頃美しいものに憧れていつも何かを捜していた私たち。ふりかえれば、共に過ごした友人も次々と旅立っていった。美輪さんもまた…。

消えた銀座の記憶

銀巴里も書店も銀座から消えたが記憶はまざまざとよみがえる。失ったものを惜しむ気持ちだけではなく、時代を一緒に生きたという思い。それは感謝という言葉になるだろうか。

(伊藤昌子・83歳、千葉県佐倉市)

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