気温3度の寒風が吹きすさぶ2025年12月、東京・原宿。19時を目がけて最大300人超が「アットコスメトーキョー」に行列を作った。Aiロボティクスのスキンケアブランド「Yunth(ユンス)」のアンバサダーにBTSのVが就任し、7日間限定のポップアップイベントが開催されたためだ。19~21時は事前予約不要で入場できるとあって、店頭の巨大ビジュアルや限定グッズを目当てにファンが押し寄せた。期間中は店内外にVの巨大パネルが多数展示され、記念撮影してSNSに投稿する来店客が終日絶えなかった。代表アイテムの美容液(3960~4950円)にノベルティーを付けた限定セットは次々と売れ、外国人観光客がまとめ買いする姿も目立った。
CM動画がXで2000万回再生 Yunthの成長戦略
YunthはDtoC(直販)を中心とした化粧品ブランドだったが、2025年11月にさらなる成長を見据えて店頭販売や海外展開へと舵を切った。その起爆剤としたのが、BTS・Vのアンバサダー起用だ。2024年9月に上場したばかりの企業としては、思い切った決断に映る。しかし、その効果は圧倒的だった。CM動画が国内外で拡散され、Xでの再生回数は2000万回に到達。同社のインスタグラムのフォロワー数は1カ月で約2.5倍に増えた。ドラッグストアなどでの展開も順調で、Vのビジュアル広告とともに売り場の目立つ場所に陳列された。東京や大阪で開かれたポップアップイベントも大きな反響を呼んだ。
HYBEの推し活経済圏 タリーズ、横浜市、VRまで
BTSの所属事務所HYBEは、アーティストIP(知的財産)を活用した「推し活経済圏」を拡大している。タリーズコーヒーとのコラボレーションでは、BTSメンバーをモチーフにしたドリンクやグッズが販売され、ファンの間で話題となった。また、横浜市と連携し、街全体をBTSのイメージカラーで染めるイベントを実施。さらに、VR(仮想現実)技術を活用したバーチャルコンサートやメタバース空間でのファンイベントも展開し、リアルとデジタルの両面でファン体験を深化させている。
HYBEの戦略は、単なるブランドイメージの向上にとどまらない。アーティストIPを核に、食品、都市開発、テクノロジーなど異業種との協業を積極的に進め、推し活消費のシナジーを生み出している。これにより、ファンのエンゲージメントを高めると同時に、新たな収益源を開拓している。
自社IPで一気通貫制作 HYBEのビジネスモデル
HYBEは、アーティストのマネジメントだけでなく、音楽制作、コンテンツ企画、グッズ開発、マーケティングまでを自社で一気通貫で手掛ける体制を強みとする。これにより、アーティストIPの価値を最大化し、迅速な意思決定と高品質なコンテンツ提供を実現している。BTSのVがYunthのアンバサダーに起用された際も、HYBEが制作したCMやビジュアル素材がそのまま活用され、ブランドとの一体感を生み出した。
世界中の企業広告に引っ張りだこのBTS・Vの広告デザインは、商品よりも本人のビジュアルが前面に押し出されるという共通点がある。これは、ファンがアーティストそのものに価値を見いだす「推し活」の特性を巧みに捉えた戦略と言える。
今後の展望 HYBEの野望
HYBEは、BTSに依存しない多角的なIPポートフォリオの構築を目指している。新たなアーティストの育成や、他社との協業を通じて、推し活経済圏をさらに拡大する計画だ。特に、VRやメタバースといったデジタル領域への投資を強化し、国境を越えたファンコミュニティの形成を狙う。
一方で、アーティストIPの過度な商業化に対する懸念や、ファンの負担増加への批判も存在する。HYBEは、ファン体験を損なわない形でのビジネス展開が求められる。今後の動向が注目される。



