お笑いコンビ「銀シャリ」の橋本直が、エッセイ集『しゃシャリでてすみません』(毎日新聞出版)を発売した。同書は、2017年4月から2023年3月まで「毎日新聞」大阪版夕刊に連載された同名コラムに加筆し、新たな書き下ろし8本を加えた全68本のエッセイを収録。相方の鰻和弘がイラストを手掛けている。
連載は「M-1」優勝翌年から開始、当時は「1番しんどい時期」
橋本は連載開始の経緯について、「M-1優勝の前からお声掛けいただいていた。ありがたいことです」と振り返る。連載期間中は「たぶん1番しんどい時期だった」と述懐。「冷静に考えると、よく頑張って書いてたなと思います。今はしんどい時期から抜けましたけど、当時はM-1稼働もあるし、ロケもめっちゃしてたんで」と当時の多忙ぶりを語った。
連載では、お惣菜パックや目覚まし時計、肉の解凍、DVD整理など、日常の些細な出来事がテーマとなっている。橋本は「人の日常って、特別な日よりこっちのほうが多いじゃないですか。取るに足らない話が好きなのかもしれない」と語る。「オチがしっかりある『エピソードトーク』にならんようにしたいと思っていました。テレビでガツンと持っていく話じゃない、でも喋りたい…みたいなイメージでしたね」とこだわりを明かす。
「正直者がばかを見る世界が好きじゃない」、共感を重視
橋本はエッセイの基準について、「正直者がばかを見るみたいな世界があんま好きじゃない。普通に暮らしてても洗い物がたまってるなとか、常にストレスみたいなものってあるじゃないですか。普通に頑張って暮らしてて起きる亀裂とか、モヤっとしたところを書きたいなっていうのはあったかもしれないですね」と説明する。
また、「著者が匿名でも、この人の文章なんか好きってなってくれたらうれしい」と述べ、お笑い芸人としての肩書に頼らない文章を目指したという。「脳が一瞬でも(仕事を)よぎりたくない。疲れてる時に読みたくないみたいな」と、仕事と切り離したエッセイを意識していた。
芸人を志したきっかけ「人生で初めて意志を発動」
橋本は、芸人の道を選んだ経緯について「唯一、人生で自分の意志が発動しました」と語る。中学受験や就職活動は流されるままだったが、「就活の時、エントリーシートの長所のところで止まったんですよね、ないな…って。ここでやらんかったらもう一生自分で決めることはないまま終わるなと思って」と振り返る。
当時は就職氷河期で、「一撃で受かっても、会社倒産するとかあるんやってなったら、時代が背中押してくれたっていうか。『別に会社、安泰ちゃうんや。じゃあ別のこと1回やっとこうか』みたいな感じでした」と説明。養成所の試験に合格し、母親に入学金40万円を借りる際、「『これ受かったからちょっと金貸してくれ』って言ったら、母親の条件は大学だけ出てくれってそれだけ。後のあなたの人生は自由ですって言われた」と明かす。
結婚後は「個がしっかり浮かび上がる」、日常が濃く
結婚して約3年が経ち、橋本は「日常は濃いですね。1人だけじゃなくなるから、より日常に強制的に戻される」と変化を語る。「1人やったらはっきりしない自意識が、結婚すると『なんでこんなことを要求してきたんやろ、今』とか、『今日機嫌悪いな』とか。より『個』がしっかり浮かび上がるんですよね。だから書くことが増える感じです」と述べる。
具体的なエピソードとして、声帯ポリープ手術後のエピソードを披露。術後2週間は刺激物が禁止されていたが、そば屋でカレー南蛮のつけそばを頼もうとしたところ、妻に禁止された。しかし妻自身はカレーつけそばを注文。「俺つけそばで我慢したのにカレーの匂いが…『いや、お前頼むんかい!』と思って。人が食ってるカレーが1番うまそうなんですよ」と苦笑いする。
漫才が「1番好きなおもちゃ」、現在は絶好調
現在、全国11都市13会場を回る単独ライブツアー中で、M-1優勝から約10年、コンビ結成21年目。橋本は「漫才してる時が1番楽しい。今1番、状態もいいと思います。油が乗ってる」と絶好調を自負する。「自分の漫才が1番好きやから。舌に合うものを自分がシェフになって作るみたいな…。漫才のテーマが思い浮かんだ時が1番楽しいです」と語る。
エッセイ執筆についても、「生きてる限り永遠に書けますよね。ただ仕上げないっすよね、締め切りがない(笑)。これが問題なんです」と締めくくった。



