1966年6月29日、ビートルズが初来日を果たした。空港には大勢のファンと報道陣が詰めかけ、警備には実に3万5000人の警察官が動員された。その熱狂と緊張に包まれた日本武道館での公演を、当時15歳だった岡本さんが鮮明に記憶している。
「夢やと思いました」――15歳の一人旅
6月30日午前5時、岡本さんは新幹線で7〜8時間かけて東京へ向かった。当時15歳の一人旅は正直怖かったが、「ビートルズが日々挑戦する姿を見せてくれたからできた」と振り返る。胸を高鳴らせて着いた日本武道館は、警察の機動隊の車がずらりと並び、ものものしい雰囲気に包まれていた。外も中も警察官で埋め尽くされていたのだ。
「こわい、こわい、こわい。中は、通路からなにからみんな警察が埋めてるんだもんね。ステージの下も、軍靴履いて、ゲートル巻いて、制服着た人たちがわんさかいましたよ」
歓声と軽蔑の視線が交錯する会場
客席には高校生や大学生の姿が目立っていた。メンバーのイニシャルをつけたセーターを着た4人の女性ファンや、「ビートルズ大好き」と書いた横長の布を持つ女性ファンの姿が特に記憶に残っている。岡本さんの席はステージのほぼ正面、2階席の10列目。スピーカーからの音も拾いやすく「いい席」だった。当時の武道館はまだ音楽コンサート向けの音響環境が十分に整っていなかったため、まったく音が聴こえない席もあったという。
本公演の前に1時間超の前座と休憩で「さんざん待たされた」後、いよいよ待望の4人が登場する。「THE BEATLES」のランプがきらびやかに点灯し、ステージの後ろから階段を上がってくる4人が見えてくる。
「目の前にビートルズがいる……!」
岡本さんはあまりの衝撃にかたまってしまった。呆然としたなかで「男が赤を着ていいんだ!かっこいい!」とハッとした。あとは見るもの聴くもの感じるすべてを記憶したいとさえ思ったという。
当時の音楽演奏会は、静かに座って聴くのが正しい“お作法”とされていた。しかし、大半の観客は「キャー!」と歓声をあげながら手を振っていた。一方で招待された文化人たちは「うるさい」と軽蔑の視線を4人と会場に向けていた。このスタンディングして声をあげながら音楽を楽しむスタイルは、ビートルズが原点だと岡本さんは語る。また、残りの観客は本物のビートルズを目前に、目が点になって呆気にとられていたそうだ。



