竹を割って細く削ったひごを編んで作られる竹細工は、すがすがしい風合いで、夏の生活空間に清涼感を与えてくれる。
水回りで活躍する竹細工
8月上旬、長野市戸隠地区の井上竹細工店を訪ねると、井上栄一さんが、流れるような手つきで竹ひごを編み、かごを作っていた。丁寧に編まれたかごやざるは丈夫で水に強く、野菜を洗ったり、洗った食器を入れて水切りをしたりと、水回りで活躍する。「私はこれで、米を研いだり、ゆでた麺を水で締めたりしています」と、井上さんが愛用のざるを見せてくれた。80年ほど前に祖父が作ったというざるは、あめ色に変わってツヤが増し、経年の美しさが宿る。手に取ると、すっとなじんだ。
安価なプラスチック製品に押されてきたが、近年は「自然のものを使いたい」と、改めて竹細工に目を向ける人が増えているという。10年ほど前から作り始めたコーヒードリッパーは、「これでいれると、味がまろやかになる」と評判で、すぐに品切れしてしまう。
全行程を一人で完結する職人技
工房で黙々と作業する井上さん。戸隠竹細工は江戸時代初期に、この地で暮らす人々の生活の糧として始まった。標高1000メートル以上の高冷地で稲作ができない。そこで自生する竹を使い、竹細工が根付いたという。材料の根曲がり竹は、長いと3メートルほどに成長し、しなやかで強く、光沢感がある。ざる一つにしても、中心は生えて2年目以上の硬い竹、外側の縁は天日干しした貴重な若竹といった具合に、パーツによって使い分ける。井上さんは「山での材料の採取から仕上げまで、全工程が一人で完結しています」と説明する。
現在、生産組合に所属する職人は30人ほど。高齢化は進むが、移住者の若手やリタイアしたシニアなど、新たな担い手も育ちつつある。国有林の一部計約400ヘクタールを「戸隠竹細工の森」として官民共同で管理し、職人たちが山に入って草刈りや道路の舗装、タケノコ盗掘のパトロールなどに携わって竹を守り続けている。「自然とともに生きて、手で竹を編み、暮らしに役立つものを作る。生活の様式が変わっても、竹細工の本質は変わりません」と、井上さんは手を動かす。
戸隠そばと竹細工の関係
この地の名物「戸隠そば」の盛りつけにも戸隠竹細工の盆ざるが欠かせない。「そば処 仁王門屋」の店主、横川幸喜さんは、「そばは水で締めて引き上げたら、そのまま盆ざるに盛る。適度に水気が残るので、地元のおいしい水とそばを一緒に味わえるんです」と話す。竹細工は手入れが大変と思いきや、扱いは難しくないという。「洗ったあと、きちんと乾かすことが大事。今の季節、風通しのよい場所につるしておけば、あっという間に乾きます」
代々引き継がれてきた竹細工の確かな技は、これからも地域の暮らしをしなやかに彩っていく。
現代のインテリアにも取り入れやすい竹細工
主要産地の一つ、大分県別府市は2024年、「編む、手しごと。BEPPU BAMBOO CRAFT」と名付けたウェブサイトを開設し、今の暮らしへの取り入れ方を紹介している。ボウル形のざるに透明の器を重ねてカットフルーツを盛りつけたり、透け感のある編み方のかごに気に入った雑誌を入れて「中が見える収納」を楽しんだり。花を飾ってもかわいらしい。「当初は40、50代の女性を主な対象と考えていましたが、国内外の幅広い人たちに見てもらえています」と担当者。同市には県営の竹工芸訓練センターもあり、後継者の育成も盛んだ。10月には、閉校した中学校の校舎を改修、駆け出しの職人らの工房として貸し出すなど、サポートを充実させる。



