『第五人格』イベントが示すeスポーツの新たな可能性、クローズド化に警鐘
『第五人格』イベントが示すeスポーツの新たな可能性

日本のeスポーツ興行は岐路に立たされている。現状のイベントは「対戦環境(観戦環境)」と「企業ブース(コミュニティ向けブース)」の2本柱で構成され、既存ファンの満足度は高いが、ややクローズドなイベントになりつつある。

そんな中、2026年7月31日~8月2日の3日間、千葉JPFドームで採算度外視ともいえる超クオリティのeスポーツイベント「Ghost Wedding 8arty&2026年夏季IJL決勝戦」が開催された。中国で圧倒的な人気を誇る対戦ゲーム『Identity V 第五人格(以下、第五人格)』の日本公式プロリーグ「Identity V Japan League(IJL)」の2026年夏季決勝戦は、賞金総額2000万円の規模で行われた。

総額の獲得賞金額では、中国に次いで日本が第2位(中国約470万ドル、日本約130万ドル)。『第五人格』は今年で8周年を迎え、中国で「8」は縁起の良い数字とされ、本イベントもお祝いの式典である「結婚式」がテーマとなった。

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eスポーツのイベントではなく、ゲームの世界そのもの

当初はeスポーツの取材として「2026年夏季IJL決勝戦」に注目していたが、会場に着いた瞬間、「eスポーツのイベントに来た」という感覚は消え去った。そこにあったのは『第五人格』のゲームの世界そのものだった。会場の千葉JPFドームは普段は自転車競技に使用されており、eスポーツイベントに使用されるのは珍しい。

特徴的だったのは、メインステージからブースエリアまで、完全に『第五人格』の世界観に統一されていたこと。楕円形のフロアはエリアごとの区分けもしやすく、大型LEDビジョンや照明設備を設置でき、中規模のeスポーツイベントに向いている会場だと感じられた。メインステージでは決勝戦だけでなく様々なイベントが行われ、結婚式のビジュアルや白いドレープで飾られた演者席、披露宴会場のような観客席が設けられた。

コスプレと没入体験が生むコミュニティの熱気

ブースエリアでは、コスプレイヤーの写真撮影ブースに大勢の来場者が集まり、中心には「レディ・ファウロ」がいた。衣装やメイクは完璧で、立ち振る舞いまで本物さながら。観客に優雅に手を振ったり、手を取り一緒にダンスを踊ったりと、ゲーム内のキャラクターが飛び出したかのようだった。会場に設置されたキャラクターの等身大立像は衣装のシワや質感まで作り込まれていた。

来場者の多くが女性で、昨今のeスポーツイベントでも女性が増えているが、明らかに客層の違いを感じる。コスプレでの参加が可能で、複数人でキャラクターを合わせたグループ参加も多く見られた。驚くことに、写真のレイヤーは皆一般参加者で、キャラクターになりきる楽しみ方が文化として根付いている印象だった。中には剣を構えてキャラクターの立ち振る舞いまで再現するパフォーマンス型のコスプレイヤーもいた。

体験ブースも没入感抜群で、『第五人格』のクイズに挑戦できるブースでは、ゲーム内で解読中にランダムに発生するシステム「調整」の要素も取り入れられていた。「真髄10連チャレンジ」ブースでは、ゲーム内のガチャ演出をそのまま体験できた。どちらのブースもタッチパネル任せの無人展示ではなく、スタッフが一人ひとりに密着し、操作方法から世界観の説明まで案内。初めて第五人格に触れる人でも楽しめるよう配慮された、テーマパークのアトラクションのような接客だった。

会場内では着ぐるみキャラクターとのグリーティングも行われ、ファン同士の交流が盛んだった。ぬい撮り(ぬいぐるみ撮影)スポットなど、「推し活」「ぬい活」が捗るブースの割合も高く、eスポーツやゲームのイベントというよりアニメイベントのような感覚に近かった。

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プロゲーマーへの推し活が限界突破、豪華な来場者特典

eスポーツ観点での気づきとして、プロゲーマーへの推し活が限界突破していた点が挙げられる。会場の外壁には選手の超デカパネルが設置され、ファンが自由にペンで寄せ書きできるようになっていた。選手のトレーディングカードが展示されたボードは、実際に販売されているカードパックから出るカードのコンプリート版で壮観だった。物販ブース付近には、ファンから選手への誕生日プレゼントや手紙を受け付ける「プレゼント回収ボックス」が並んでいた。最近のeスポーツも推し活に傾倒しているが、ここまでは振り切れていない。

入場無料のイベントながら、来場者特典は豪華で、ペンライト、トレーディングカード、うちわ、パンフレット、オリジナルショッパー、招待状まであり、一気に世界観に引き込まれた。

総括:eスポーツイベントの「最高到達点」か

近年、単一タイトルでの大型フェス開催は珍しくなくなってきた。「Ghost Wedding 8arty」もゲーム単体での大型フェスだが、eスポーツイベントとして見た場合、別の見え方ができる。ゲームのオフラインイベントとeスポーツのオフラインイベントは構造が大きく異なるが、今回のイベントは「『第五人格』のテーマパークを作ろう。その中にeスポーツを入れよう」という逆のアプローチだった。

今後、国内のeスポーツイベントにも同様の考え方が取り入れられる可能性はある。ただし、懸念は2つある。1つ目は予算の問題で、「仮設のテーマパークを作るには資金が必要」という声が聞こえてきそうだが、会場の千葉JPFドームは観客席2000~3000人規模と比較的コンパクトで、発展途上のeスポーツコンテンツに適した規模感だった。2つ目は、世界観の構築には強いIPが必要だという点。日本のeスポーツタイトル自体のIPは弱い傾向にあり、ゲーム内のキャラクターではなく、プロゲーマーやストリーマー、コスプレイヤーがIPになる傾向がある。今回の『第五人格』メソッドは「強い世界観とIPを手にした、強者の戦略」と取ることもできるが、「IPの主体をゲームタイトルに取り戻すための戦略」と取ることもできるだろう。

昨今、eスポーツのイベントは「競技&観戦環境」と「ファンミーティング環境」の2本柱で構築されてきたため、ややクローズドなイベントになりつつある。裾野拡大を目的としたオープンなイベントを目指す観点では、今回の『第五人格』のイベントは1つの最高到達点といえるかもしれない。