北海道網走市の「博物館 網走監獄」は、高さ7・4メートルの屋根に取り付けられた天窓から太陽の光が差し込む、モダンな木造建築だ。しかし、厚さ7ミリの天窓のガラスには脱獄防止のために鉄線が施され、実際に頭突きで破って脱獄した人物がいたという。「昭和の脱獄王」の人形が高い位置に展示され、過酷な監獄生活が思い浮かぶ。
漫画「ゴールデンカムイ」の舞台
漫画「ゴールデンカムイ」はアイヌが秘蔵した金塊を求め、主人公・杉元佐一やアイヌの少女・アシㇼパらが旅を続ける物語。金塊のありかを知るカギとなる「のっぺら坊」が網走監獄に収監されていた。脱獄王の白石由竹のアドバイスを基に、杉元らは潜入作戦を決行する。監獄を舞台にした金塊を狙う各勢力のバトルは作中屈指の人気エピソードだ。
網走監獄は1890年(明治23年)、現在の網走刑務所の場所に設置された。火災に見舞われ、1912年に5棟が放射状に広がる「五翼放射状平屋舎房」を建設。84年まで現役で使用され、85年に移築復元。2016年に国の重要文化財に指定された。「囚人たちが自分たちで木を伐採し、資材を賄って建てたものです」と「博物館 網走監獄」の今野久代副館長(61)が教えてくれた。
囚人たちの開拓への貢献
「屯田兵はよく知られているけれど、囚人たちも北海道の開拓の歴史と切っても切り離せない存在」と今野さん。1000人以上の囚人は、網走と旭川をつなぐ道路の開削にあたり、うち163キロを8か月で完成させた。
最新技術が集結したのもこの場所だった。近代的な建物だけではなく、風呂や炊事の給湯に使うボイラーや、網走で最初に電気が使われたのも刑務所だ。農業の発展にも寄与した。
観光名所となった「監獄」は、広大な野外博物館だ。独居房の中に入ってみると、光が入るとはいえ、圧迫感、閉塞感はぬぐえない。「二見ヶ岡刑務支所」の建物では、食堂などが再現されており、当時の囚人たちの暮らしぶりも体感できた。
「ゴールデンカムイ」の作者
「ゴールデンカムイ」は2014~22年に「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載された野田サトルさんの漫画。単行本は全31巻。累計発行部数は3000万部以上。アニメ化や実写映画化、ドラマ化もされた。
野田さんは北海道北広島市出身で、03年に漫画家デビュー。「ゴールデンカムイ」で日本漫画家協会賞大賞(コミック部門)、芸術選奨文部科学大臣新人賞(メディア芸術部門)など受賞多数。現在、同誌でアイスホッケー漫画「ドッグスレッド」を連載している。
周辺の観光スポット
網走監獄の舎房の中心にあるのが八角形の「中央見張所」だ。扇の要に位置し、放射状に配置された五つの舎房を少ない人数で監視できる仕組みという。「見張所」に入ってみると、一目瞭然。廊下に誰がいるか、異変があればすぐにわかるだろう。副館長の今野久代さんは「効率的な西洋式を取り入れたんです」と説明する。
「ゴールデンカムイ」の背景について知りたいと、北海道アイヌをはじめ、世界の北方民族の暮らしを学べる北方民族博物館も訪ねた。鮭皮でできた服や海獣の内臓を使った防水服、実物大のイヌイットの住居模型など、常設展示だけでも約900点あるという。同館の鈴木将譲さん(39)は「厳しい気候の地域で暮らす人々の知恵や工夫を知ってもらいたい」と語る。
厳冬期に思いをはせ、夏でも流氷が見られるオホーツク流氷館に向かった。本物の流氷にさわれるマイナス15度の展示室では、ぬれたタオルを振り回すと、あっという間にかちんこちんに。同館は名勝・天都山にあり、屋上の展望台からはオホーツク海、網走湖の絶景が楽しめた。また市内のジェラート店が手がけた「流氷ソフトクリーム」は、オホーツク海の塩を使った塩キャラメル味で絶品。ここでしか食べられないそう。
雄大な景色に触れようと、市の中心部から離れ、能取岬まで足を運んだ。澄み渡ったオホーツク海と穏やかな波の音が迎えてくれた。そびえ立つ能取岬灯台は白と黒のしま模様がかわいい。大正時代に建てられ、海の道しるべになってきたという。その横には、観光客向けに設置された「願いを叶える鐘」があり、来訪者の願いが書かれたホタテ貝の「絵馬」が並ぶ。のどかな光景に心が和む。
優しくも厳しい自然の中で育まれてきた独特の文化や歴史を持つ網走。全く異なる表情を見せてくれるだろう冬に、再訪したいと思った。
グルメ情報
「オホーツク産直市場 かにや」((電)0152・67・5550、不定休)は、その名の通り、カニを中心に新鮮な海産物を味わえる。観光客に人気で、テレビの取材も多い。名物は北海道産の毛ガニ1匹丸々をいけすから選んでその場で食べられる「オホーツク活毛がに定食」。運営会社社長の富永正則さん(56)は「新鮮だからこそできるカニの生け造りのあとはゆでたカニを味わえるので、2度楽しめる」と太鼓判を押す。口の中に甘みが広がるジューシーなタラバガニとイクラが味わえる特製タラバ蟹丼(3800円)=写真=やエビやウニなどがのった特製海鮮丼も好評だ。網走の特産、釣りキンキの開きのほか、カニのだしがきいた特製毛がにラーメン、かにシューマイといったメニューもある。
かつて網走刑務所の農場だった大曲湖畔園地のひまわり畑ものぞいてみた。珍しい二期作の畑で、この日は1期目の最終日。約40万本のひまわりはほとんどが下を向いていたが、少し高い位置にある展望台から見下ろすと、黄色と緑色が一面に広がり、美しかった。2期目は9月下旬頃、約260万本が咲くそうだ。
●ルート 博物館 網走監獄へは女満別空港から車で20分、JR網走駅から観光施設めぐりバスで約10分。
●問い合わせ 博物館 網走監獄=(電)0152・45・2411、オホーツク流氷館=(電)0152・43・5951、北方民族博物館=(電)0152・45・3888



