大阪・堺を舞台に、自閉スペクトラム症の兄と、カウンセラーとして働く妹の日常を描いた映画「平行と垂直」が公開中だ。言葉を巡る物語であり、コミュニケーションについての映画ともいえる。ざっくばらんな日常と関西弁を通して、見過ごしそうなコミュニケーションの可能性に気づかせてくれる作品だ。
兄妹の絆と、周囲の人々の支え
堺で暮らす大貴(安田章大)と希(のん)は兄妹。兄の大貴は自閉スペクトラム症で、毎朝、清掃の仕事に向かう時も直進と直角に曲がることを繰り返して、仕事場にたどりつく。彼の世界は平行と垂直で成り立っているのだが、大貴は仕事を続け、食事や洗濯も一人でこなし、自立している。
商店街の人たちは、大貴を見かければ声をかけてくる。職場の飲み会では、面倒見のいい同僚がそばにいてくれるし、かつて入居していたグループホームの代表も、何かと気にかけてくれる。何より一番の支えになっているのは、妹の希だ。幼い頃から、不幸せな家庭で育った2人は寄り添うように生きてきた。今も、毎週水曜日に、大貴のアパートでの2人きりの食事会は欠かせない。
同じ目線が生む、心の通い合い
直線的というよりも曲線的な、いかにも大阪人らしい人たちを、なぜ潔癖で、整理整頓にこだわる大貴が受け入れられるのか。それはおそらく、彼らの目線の高さが同じだからではないか。斜め上からでない、地面に平行な目線だ。
希は恋人の雅也(伊島空)との結婚に向けて、彼の両親(菅原大吉、神野三鈴)と東京で会い、両家で食事をする。そこで大貴と向き合った母親は、新しい家族を迎え入れる不安を、言葉を選びながらも正直に大貴に伝える。目線を下ろして語ろうとする彼女の言葉を、大貴はどう受け止めるのか。言葉を返せない大貴は、あるアクションを起こす。
その場ではうまく気持ちが伝わっていないように見えたが、しっかり伝わったことが後で分かる。大貴は、言葉以外に心を通わせる方法があることを知っているのだ。彼らのやりとりを見て、現実にある様々な壁を乗り越えるヒントがあるように思えた。
生活感あふれる大阪と、のんの好演
生活感のある大阪の風景、漫才風の会話が、重苦しい展開になりそうな映画に温かい風を吹かせる。関西人である小林聖太郎監督は、大阪の空気を熟知しているはずだ。脚本に感銘を受け、企画したという安田をはじめ、俳優陣はみな好演していたが、何といっても、のんが素晴らしい。喜びや悲しみ、怒りを瞬発的に、しかも自然に表現してみせる。上からの目線でない、市井の人の感覚と表情の豊かさは、この映画のテーマそのものだ。
「平行と垂直」は新宿バルト9などで公開中。上映時間は1時間58分。



