『スリー・ビルボード』(2017)や『イニシェリン島の精霊』(2022)で知られるマーティン・マクドナー監督の最新作『ワイルド・ホース・ナイン』(配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)のワールドプレミアが、第83回ベネチア国際映画祭で開催された。あわせて、日本公開が2027年1月29日に決定したことも発表されている。
イースター島を舞台にCIAエージェント2人の運命を描く
本作は、モアイ像で知られるイースター島(ラパ・ヌイ)を舞台に、1973年のチリ軍事クーデター直前、島へと送り込まれたCIAのエージェント2人に起こったことを描く。CIAエージェントのひとり、クリスを演じるのはジョン・マルコヴィッチ。もう一人のエージェント、リーを演じるのはサム・ロックウェル。CIAの局長・MJにはスティーヴ・ブシェミがキャスティングされている。さらに、南米を代表する名優マリアナ・ディ・ジローラモ、アイリン・サラスに加え、ミュージシャンであり俳優としてもジム・ジャームッシュ作品の常連として知られるトム・ウェイツ、リチャード・リンクレイターやハル・ハートリー、グレッグ・アラキ作品に出演し、90年代にインディペンデント映画のミューズと称されたパーカー・ポージーの出演も明らかになっている。
ワールドプレミアには、過去に同映画祭で2作連続最優秀脚本賞を獲得したマクドナー監督をはじめ、ジョン・マルコヴィッチ、サム・ロックウェル、スティーヴ・ブシェミ、マリアナ・ディ・ジローラモ、アイリン・サラス、パーカー・ポージーらが集結。船上から姿をみせると会場からは大歓声が沸き上がり、映画界のレジェンドたちが勢揃いした圧倒的な貫禄とオーラに、会場全体が熱気を帯びた。
マルコヴィッチ、引退否定&マクドナー作品への即決を告白
プレミア上映に先駆けて行われた記者会見には、前出の面々が揃って出席。すでに浮上しているマルコヴィッチへのアカデミー賞受賞の噂に沸き立つ記者らからの質疑応答に、丁寧に応える様子がみられた。
会見で、ジャーナリストの一人から「すでに受賞スピーチを書き始めているか」と尋ねられたマルコヴィッチは、「それは実に親切なご質問ですね。私は長いキャリアを積み、脚本家、監督、俳優たちと素晴らしいコラボレーションを重ねてきました。彼らと競い合っているとは一度も感じたことがありません。私にとって何よりも嬉しいのは、この映画が注目を浴びることです。この映画には素晴らしい演技を見せる俳優たちが何人も出演しており、脚本も演出も素晴らしい。私にとって重要なのは、それなのです」と語り、自身への評価以上に作品が注目を集めることを喜ぶ姿勢をのぞかせた。さらに「私は人生を通して、大好きなことをやってきました。これからもそれを続けていくつもりです。引退するつもりはありません。時が来れば、周りが私を引退させてくれるでしょう。それが物事の自然な流れだと思いますから」と語り、生涯現役を宣言した。
脚本・監督を務めたマクドナーは、本作について「今の時代に対するちょっとした皮肉が込められている」とコメント。映画を「権威や、私たちに伝えられていることに対して疑問を投げかける」手段として使うのが好きだと語り、70年代のイースター島を舞台にしたCIAエージェント二人の物語を通して、現代社会にも通じるテーマをユーモアたっぷりに描いたことを明かした。
レジェンドたちが語る出演の経緯と、絶賛の批評が続々
マルコヴィッチは、自身とロックウェルが演じるキャラクターを「2人の間抜け」と表現し、出演を決めるのは「簡単な決断」だったと振り返る。「以前、マクドナーが書いた脚本をいくつか送ってもらったことがあったが、他の仕事の都合で検討できなかった」とかつての経緯を語り、「今回のオファーが来た時、絶対にやると決めた。幸い、邪魔になるような予定は何もなかった」と、念願だったマクドナー作品への出演を即決したことを告白した。
スティーヴ・ブシェミも「私はマクドナーを文字通りストーカーのように追いかけ回して、『絶対に私と一緒に仕事をしてくれなきゃ!』と言ったんです。そうしたら、彼は私にこの風変わりな上司役をオファーしてくれて。私は喜んで引き受けました」とユーモアたっぷりに出演の経緯を明かした。サム・ロックウェルは、リーとクリス、二人の劇中での関係性について語り、会場の笑いを誘う場面もあった。その後のレッドカーペットでも、現地の映画ファンから大歓声で迎えられた彼らは、声援に応えつつプレミア上映が行われる会場へと向かっていった。
上映後には約15分間にわたるスタンディングオベーションが巻き起こり、今年の映画祭最長を記録。マルコヴィッチは感極まった様子をみせ、マクドナー監督も感動の表情を見せた。プレス向け試写でもスタンディングオベーションが起こる異例の事態となっている。
批評家からは「まさにマクドナーの真骨頂(ハリウッドレポーター誌)」、「観る者の心を焼き尽くし、かつ涙が出るほど笑わせてくれる。(デイリー・テレグラフ誌)☆☆☆☆☆(満点)」、「ジョン・マルコヴィッチとサム・ロックウェルは完璧なコンビ。(ヴァラエティ誌)」、「(マルコヴィッチ)この役柄に無限の深みを築き上げている。彼の最高傑作(ハリウッドレポーター誌)」、「ブシェミにとって、天の恵みのようなハマり役(ハリウッドレポーター誌)」と圧倒的な最高評価が相次いだ。本作はコンペティション部門出品作で、現地時間9月12日に発表される受賞結果にも大きな期待が寄せられている。



