「相棒」杉下右京が嫌うものとは?25周年で読み解く刑事ドラマの魅力
「相棒」杉下右京が嫌うものとは?25周年で読み解く魅力

シーズン24まで続く人気ドラマ「相棒」(テレビ朝日系)は、他の刑事ドラマと何が違うのか。社会学者の太田省一さんは「紅茶や落語、クラシック音楽など、幅広い趣味を持つ主人公・杉下右京には、『税金の無駄遣いだ』と毛嫌いしているものがある」という。本稿は、太田省一『「相棒」大全 25周年を迎えた傑作刑事ドラマ大研究』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

ポットを高く掲げて紅茶を注ぐ杉下右京

右京の浮世離れ具合は、趣味の多彩さにも表れている。どの趣味をとっても仕事と同様にとことん突き詰めるタイプ。それゆえ周囲がついていけず、しばしば呆れられる。時にはその知識が真犯人を突き止めるのに役立つこともあるが、あくまで趣味は趣味なのでそれ自体は実益にまったく結びつかない。

まず、紅茶への偏愛は有名だろう。いつも着ている3つボタンのスーツもそうだが、右京の英国趣味のひとつだ。初期にはコーヒーを飲んでいることもあったが、いまでは紅茶一筋。ティーポットを高く掲げて紅茶を注ぐアクロバティックなスタイルは、もはやトレードマークである。むろん茶葉のことにも精通している。紅茶の専門店にもよく足を運んでいるようだ。そこで出会った人物が事件に関わっているということもある。ただどんな相手であったとしても、紅茶への蘊蓄を傾け合うことは無上の喜びのようだ。

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落語、チェスからクラシック音楽まで

落語も詳しい。寄席にも足を運ぶ。シーズン1第3話「秘密の元アイドル妻」では、知り合いの落語家(小宮孝泰)を巻き込んだ事件が起こるという流れだった。鑑識の米沢(六角精児)も同じく大の落語好き。勤務中でも古今亭志ん生の素晴らしさをともに語り合ったり、落語のCD(テープ)を貸し借りしたりする趣味仲間だ。

チェスもある。職場であるはずの特命係の部屋にはおしゃれなデザインの駒とチェス盤が常に置いてあって、誰かと対戦していたりする。シーズン14第5話「2045」では、最先端の人工知能とも対戦した。神戸尊とは盤を介さず棋譜を暗記して脳内対局をしたことも(シーズン8第8話)。対局の棋譜が事件解決のヒントになったこともある(劇場版第1作)。ほかにもクラシック音楽(ピアノを弾けたりもする)や絵画など芸術鑑賞、そして読書など、とにかく興味の幅が広い。

なぜ右京は幽霊を信じるのか

右京の特異な点は、幽霊や超自然的な現象を信じる傾向にあることだ。これは一見、論理的な推理を得意とする彼のキャラクターと矛盾するように思える。しかし、太田氏によれば、右京は「人間の理解を超えたもの」に対する好奇心が強い。幽霊を信じることは、彼の知的好奇心の延長線上にある。また、コナン・ドイルとの共通点も指摘される。ドイルはシャーロック・ホームズの生みの親でありながら、心霊現象に深い関心を寄せていた。右京も同様に、科学では説明できない現象に魅力を感じるのだ。

右京が幽霊を信じる本当の理由

さらに、右京自身も推理小説を書いたことがある。作中で彼は、自らの推理を物語にしたことが示唆される。これは彼の想像力の豊かさを物語っている。幽霊を信じる本当の理由は、単なる趣味の延長ではなく、人間の心理や社会の裏側を探求するための手段として、非現実的な要素を受け入れているからだ。太田氏は「右京は、現実と非現実の境界を自由に行き来できる人物」と分析する。

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「税金の無駄遣いです」右京は銃を嫌う

そんな右京が唯一嫌うもの、それが銃だ。彼は「税金の無駄遣いです」と公言し、拳銃を携帯しない。これは他の刑事ドラマと一線を画す特徴である。例えば、1970年代の名作「太陽にほえろ!」では、刑事が銃に弾を込めるシーンが印象的だったが、右京はそうした暴力装置を拒否する。また、田村正和演じる古畑任三郎も銃を持たなかった。古畑は言葉による推理で犯人を追い詰めるスタイルだった。右京も同様に、知性と対話で事件を解決する。銃を嫌うことは、彼の信念であり、ドラマの世界観を象徴している。

右京の多彩な趣味と銃への嫌悪は、彼のキャラクターを際立たせ、長年にわたって視聴者を魅了し続けている。25周年を迎えた「相棒」は、これからもその独自性を保ちながら、新たな物語を紡いでいくことだろう。

(写真=スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト)

映画「相棒-劇場版IV-首都クライシス 人質は50万人! 特命係 最後の決断」の初日舞台挨拶に登壇する俳優の水谷豊(左)と反町隆史。=2017年2月11日