今年も慰霊の夏が来た。日本人はいま、これまでとは異なる視点から戦争を捉え直す時期にきている。ノンフィクション作家の小林文乃さんが、そんな夏に手に取りたい文庫3冊を紹介する。
硫黄島の遺骨収集に迫る執念のルポ
〈1〉『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』(酒井聡平著、講談社文庫、935円)は、地方紙の記者による執念のルポ。戦時中、著者の祖父は小笠原諸島の父島にいた。その縁から硫黄島の遺骨収集に参加する機会を得るが、上陸までの試行錯誤は13年に及ぶ。
選考はなぜそこまで厳しいのか。約2万人が戦没した島で、なぜ今なお半数の遺骨が見つからないのか。著者の尋常ならざる熱量が、現代まで続く戦後の闇に肉薄していくさまは圧巻である。
パラオの先住民と「親日国」の通説を問う
〈2〉『あのころのパラオをさがして 日本統治下の南洋を生きた人々』(寺尾紗穂著、中公文庫、1210円)が見つめるのは、激戦地パラオ諸島の先住民だ。中島敦に導かれるように島を訪れた著者は、「戦時中からの親日国パラオ」という通説に切り込んでいく。
戦争末期、旧日本軍による島民虐殺計画は、本当に存在したのか。文庫版のあとがきには、この問いをめぐって当時の防衛大臣から「私信」が届いた顛末も記される。今も昔も、支配が暴力の顔をしているとは限らない。
アランが説く戦争の本質
『幸福論』で知られるアランは、第一次世界大戦に一兵卒として従軍した。〈3〉『裁かれた戦争』(アラン著、白井成雄訳、講談社学術文庫、1100円)はその経験から生まれた反戦論だ。
愛国心、美、お偉方、狂信などの言葉に隠された心理を読み解きながら、戦争の本質を見据えようとする。「彼らは実に巧みに名誉に化粧を施す」とアランは警鐘を鳴らす。すべては工場内でのように進行する。私たちは受け身の諦めを捨て、「否」と言い続けるしかない。



