鈴木涼美『悪い血』、芥川賞次点の話題作 優れた「女体」の過去と危うい「母体」の現在がせめぎ合う――児玉雨子さんが評
鈴木涼美『悪い血』、芥川賞次点 優れた「女体」と危うい「母体」の現在がせめぎ合う

鈴木涼美さんの『悪い血』(文芸春秋、1870円、初版5000部)が、先の芥川賞の次点となった。思いがけない妊娠が発覚した三十代の主人公が、採血された血液を奪還するために夜通し病院へ向かう道中で、自身の半生を振り返る構成だ。

主人公は春をひさいできた女性で、奔放だった過去にどこか罪悪感を抱いている。因果応報の「果」を求めるように記憶の箱をひっくり返し、罰せられるべき過失を探しているようにも見える。優れた「女体」だった過去と、危うい「母体」としての未来との間をさまよいながら、そのどちらでもない「私」の言葉が紡がれる。

女性の身体への懲罰的視線

作詞家・小説家の児玉雨子さんによる書評は、女性の身体に降りかかる諸問題がつねに懲罰的だと指摘する。性被害に遭った女性を叱責し、水商売やセックスワーカーを悪者にし、日本での中絶手術は掻爬法で、無痛分娩は依然少数派だ。

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その一方で、本作の核はそうした社会への糾弾ではなく、一個人が抱える後ろめたさにフォーカスされている。たとえそれが社会から責任転嫁されたものであっても、罪悪感に揺らいだ心はその人だけのものだという視点だ。

暗いが、露悪的ではない夜の話

この小説は暗いが、決して露悪的なフィクションではない。世界のそこかしこに翳っている夜の話であり、読者に静かな余韻を残す。

著者・鈴木涼美

鈴木涼美さんは1983年東京都生まれ。東京大学大学院社会情報学修士課程を修了し、修士論文は後に『「AV女優」の社会学』として書籍化された。今作を含め計3作が芥川賞候補になっている。

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