スモーキングルーム第320回:金ボタン、煙のもとへ帰還
スモーキングルーム第320回:金ボタン、煙のもとへ

金ボタンは、幼い煙の声を思い出していた。冷たく光る星空の下で聞いた「君は僕のドッペルゲンガー?」という声。煙は、針金の遺失物がないから彼はもう帰ってこないかもしれない、とぼんやりした声で言った。

あの時、俺は言ってやるべきだったんだ。針金の遺失物は煙、お前だよ、と。だから針金は必ず帰ってくる。針金がお前を忘れるはずなどないのだから。あいつも俺にそう言って欲しかったはずなのに、言えなかった。分身のような友人に。

ホテルへの疾走

無機質な床が革靴の下で鳴った。金ボタンは駆けだしていた。空港を飛び出し、タクシーを止め、行き先を告げる。毎日何度となく口にした古巣の名を。

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タクシーが森を抜け、白い宮殿のようなホテルが見えてくる。車がロータリーを回り、国旗がはためく正面玄関の前に停まる。ケピ帽を被ったベルボーイが荷物を受け取ろうと出迎えて、ぎょっとした顔で足を止める。ドアマンも回転扉の横で呆気に取られた顔をした。金ボタンは彼らの脇をすり抜けてホテルに入った。

再会

吹き抜けの天井から下がる荘厳なシャンデリアが煌びやかな光を散らす。大理石の床に靴音が響く。金色の台車を押していた荷物運びも、客を案内しようとしていた客室係も、フロント係も驚いた顔で、玄関ホールを抜ける金ボタンを眺めた。フロント裏から出てきた美丈夫が「どうした、忘れ物か」と声をかけたが、金ボタンの耳には入らなかった。

赤い絨毯の敷かれた大階段の前で煙が足を止め、金ボタンに静かに顔を向ける。その頭上には、盾を支える獅子と雄鹿の紋章があった。

煙は微笑んで、言った。

「お帰りなさいませ」

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