『サタンタンゴ』評:救済待つ人々を描く現代的な古典
『サタンタンゴ』評:救済待つ人々を描く現代的な古典

『サタンタンゴ』(国書刊行刊)は、社会主義時代末期のハンガリーを舞台に、救済を待ちながらも欺瞞に満ちた日々を送る人々を描いた小説だ。著者のクラスナホルカイ・ラースローは昨年ノーベル文学賞を受賞しており、本書はその代表作として知られる。

舞台とあらすじ

舞台は、さびれた農場にある名もなき集落。儲けた金を分配して去ろうとする人々のもとに、一年半前に死んだはずのイリミアーシュとペトリナという二人組が生きているとの知らせが入る。人々は彼らの到着を待つが、イリミアーシュは救済とは程遠い詐欺師のようで、正体も曖昧なまま物語は進む。

構成と文体の特徴

この小説は六章ずつの二部構成で、前半は一章から六章へ進むが、後半は六章から一章へ戻る。つまり、小説自体が「六歩進み、六歩戻る」ステップを踏んでいる。読者は冒頭の鐘の音に導かれ、やがて出発点へと引き戻される。

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文体も独特で、雨やぬかるみ、壁土、傾く屋根、安酒の匂い、滑稽な会話が鮮明に立ち上がり、読み手を文章の流れに飲み込む。難解そうに見えて、その波に飲まれるのは心地よい。

比較と現代性

本作はゴーゴリの『検察官』やドストエフスキーの『悪霊』と比較され、冒頭にはカフカも引用されている。しかし、同時に驚くほど現代的な小説でもある。社会が疲弊し、人々が戸惑うとき、自ら考え決断する代わりに、何者かが「答え」を与えてくれるのを待ち始める。答えは訪れないかもしれないが、雨と恐怖と待機を書き留めながら踊り続けることこそが、できることなのだ。

早稲田みか訳、2970円。

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