赤嶺淳著『油脂で語る近現代 クジラとオランウータンをつなぐ糸』(平凡社新書、1265円)は、鯨油とパーム油という二つの油脂を軸に、グローバル・ヒストリーを描く。評者は近現代史研究者の辻田真佐憲氏。
鯨油からパーム油へ
鯨油は産業革命以降、照明用の灯油や機械の潤滑油として需要を伸ばした。20世紀に入り石油に用途を奪われると、液体油を固形化する技術革新などもあって、マーガリンや石鹸の原料として利用されるようになった。
欧州で都市化が進んだことも需要を押し上げた。さらに石鹸の製造過程で得られるグリセリンは、爆薬に使われるニトログリセリンの原料となり、軍需産業とも結びついた。
日本の捕鯨と油脂生産
日本は伝統的な捕鯨国とされるが、もともとの目的は鯨肉だった。それが1930年代には、欧州市場で需要が高い鯨油生産に本格参入し、英独やノルウェーと鯨類資源を奪い合うようになった。
戦後、鯨油の生産が縮小すると、代替のひとつとなったのがパーム油だった。油脂需要が増大するなかで、アブラヤシのプランテーションから大量に安定供給されるパーム油はまさにうってつけだった。2005年には大豆油を抜き、世界でもっとも多く生産される油脂となった。
環境への影響
クジラも保護されて結構だと思うかもしれない。だがアブラヤシは、主に東南アジアのボルネオ島とスマトラ島で栽培される。しかもその実は腐敗が早いため、産地近くに搾油施設などを建てなければならない。その結果、熱帯雨林が切り開かれ、両島にしか生息しないオランウータンの生態が脅かされているのだという。つまり、サブタイトルにある両者がここで一本の線でつながるのである。
このように、世界にちらばる歴史が思わぬかたちで結びついていくところに本書の面白さがある。すべてのエピソードを紹介できないことが悔やまれるぐらいだ。専門分野の細分化が進み、歴史の全体像を描くことが難しくなるいま、こうした試みをますます応援したい。



