羽生結弦きっかけで人気再燃「絶望の哲学者」シオランの名言と反出生主義
羽生結弦きっかけで人気再燃「絶望の哲学者」シオラン

フィギュアスケートの羽生結弦選手がきっかけで、ルーマニアの哲学者エミール・シオラン(1911-1995)が再び注目を集めている。シオランは「絶望の哲学者」とも呼ばれ、その過激な思想とアフォリズムで知られる。特に『生誕の災厄』(原題:De l'inconvénient d'être né)は、生まれたことへの呪詛に満ちた一冊であり、近年若い世代を中心に人気が再燃している。

「生まれなかった自分」を想像する幸福

シオランの名言の一つに、「生まれてこなかったと考えてみよ。何という幸せ、何という自由、何と大いなる余裕に恵まれることだろう!」というものがある。これを現代風に超訳すれば、「自分が生まれてなかったらって考えてみる、ただそれだけでなんか幸せ!」となる。仕事や家事、世界情勢に追われるストレス社会で疲れ果てた時、自分が生まれなかったと想像することで、今感じているストレスや負の感情、将来への不安、死への恐怖がすべて消え去るという考え方だ。

『生誕の災厄』と反出生主義

『生誕の災厄』は、シオランの代表作の一つで、生まれたことへの否定をテーマにしたアフォリズム集である。この本は、そのキャッチーな題名からシオランに入門する読者も多く、日本でも装丁の優れた新装版が出版されている。また、文庫化された『崩壊概論』(有田忠郎訳、ちくま学芸文庫)も入手しやすい。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

この本の中核にあるのが「反出生主義」という思想だ。生まれることの否定と、産むことの否定を思想にまで高めたもので、名前自体は最近ついたが、古代ギリシャの悲劇詩人ソポクレスやブッダ、ドイツの哲学者ショーペンハウアーなど、古代から類似の考えは存在した。シオランはこれらの流れを汲み、独自の哲学を打ち立てた。

シオランと現代文化への影響

シオランの影響は哲学の領域にとどまらない。数年前には、『生誕の災厄』と同名のオーストリア映画が制作された。この映画は子供型のアンドロイドを主人公にしていたが、倫理的に問題があるとして映画祭での上映が取りやめになった。さらに、ルーマニアの映画批評家が「こんな駄作にシオランを引用するな」と激怒する騒動も起きた。

このように、シオランの「お騒がせ精神」は現代にも受け継がれている。『生誕の災厄』を通じて、反出生主義は再び注目を集め、多くの人々に影響を与えている。

個人の解放とシオランの思想

紹介者(筆者)は、生まれたことが嫌で、子供を作らされることで自分が抱く絶望を再生産しなければならない将来にうんざりしていたという。しかし、反出生主義の概念を知ることで、過去や未来を切り捨て、今広がっている自分の人生を生きていこうと吹っ切れたと語る。

シオランの思想は、現代のストレス社会に生きる人々にとって、一種のカタルシスをもたらすものかもしれない。生まれたことへの否定は、逆説的に今を生きる力につながるのだ。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ