金ボタンが森のホテルを去ることは瞬く間に知れ渡り、常連客も、従業員も、ホテルに出入りする業者も、街の飲み仲間や女たちも、大いに残念がった。「ほんの数年だ」と金ボタンが笑っても、休憩室では毎晩誰かが飲んだくれ、洗濯部屋やカフェでは毎日のように女性が泣いていた。
別れを惜しむ人々
「湿っぽいわね!」と呆れていた砂糖煮の娘も、夜になると枕を抱えて金ボタンの部屋をノックする始末だった。「金のパパが決めたことだから仕方ないけれど、ホテルは太陽が隠れたみたいになってしまうわ」と萎れる砂糖煮の娘や、「代わりに何人の給仕や総合世話係が要ることやら」とうなだれる古株従業員たちを励ますのは美丈夫の役目になった。煙だけがいつもと変わらぬ調子で仕事をしていた。
送別会の夜
金ボタンが発つ前の晩、休憩室では盛大な送別会が催され、厨房スタッフはそれぞれの得意料理を運び、給仕たちは餞別を金ボタンに渡し、バーテンダーはとっておきの酒を開けた。金ボタンは男性従業員たちに「今夜こそ潰してやる!」とさんざん酒を注がれ、「明日はスチュワーデスに介抱してもらえるからな」と全員と乾杯をしていたが、いつものようにけろりとしていた。頃合いを見て、美丈夫が「金ボタンを酔わせるまで飲み続けたら、明日ホテルで働く者がいなくなってしまう」と皆を止め、砂糖煮の娘やベルボーイといった十代の従業員を帰し、それから早出の従業員たちに半ば強制的に片付けをさせ、うまくお開きに持っていった。
最後の訪問
ようやく皆が帰り、フロント裏と門番小屋への差し入れを済ますと、金ボタンは再び地下へ行き、煙の部屋をノックして返事を待たずに開けた。
煙は簡素な書き物机で記帳をしていた。驚いた様子もなく、「そろそろ見回りをするつもりでした」と金ボタンを見上げる。



