写真家・森山大道の評伝『写真があってよかった。森山大道伝』(新潮社、3630円)を、美術史家の金沢百枝氏(多摩美術大教授)が評した。著者は写真評論家でエッセイストの大竹昭子。多彩な表現で、森山と日本写真史について詳らかに語る。
「アレ・ブレ・ボケ」は生理的必然
森山のトレードマークのように言われる「アレ・ブレ・ボケ」は、観念的なものではなく、生理的で、実質上の必然から生まれたと森山は説く。路上スナップにうってつけな、手にすっぽりおさまる小型カメラを愛用していたため、ワンショットに使うフィルムが一コマの半分を使うので倍の枚数撮れるが、粒子は粗くなり(アレ)、画像は甘くなる(ボケ)。しかし費用を気にせず、のびのび撮れる利点がある。また、使っていた安いフィルムの感度は低く曇天ではボケ、ブレた。つまり、スピーディなスナップショットでは、それらは必然で、ウケ狙いではなかった。
戦後日本を彷徨い、暗室技術も駆使
スナップショットの撮影地は、読書好きの森山が小説の舞台など、あてずっぽうに決めた。日本全国津々浦々を彷徨し、戦後日本を撮り続けた。時にはトラックをヒッチハイクして助手席から狙撃兵のように撮ることもあったという。
森山は暗室技術も駆使した。これは絵画や文学の描写力に近いものだそうで、その力があれば表現性の高い作品に仕上げることができる。しかし作り込みすぎると、リアリティが失われる。写真集『ハワイ』(2007年)では、あえて暗室技術を制限し、現実との接点を死守した。その結果、写真一枚一枚が独立しながらも共鳴する作品になったと大竹は讃える。
巨人の新たな境地
写真は「大いなる時間」に関わる「心の領域」であり、記憶のありかだと語る森山。写真と向き合い続け、七転八倒しつつ、新たな境地に達した巨人は、これからどこに向かうのだろうか。



