煙はいつものように静かに微笑んだ。ザックと煙は、ある崖の前で考古学について語り合っていた。煙はザックに「本当は娘のためにあなたの滞在を許したのですよ。あなたと関われば、娘も大学に行きたくなるかと思ったのです」と打ち明ける。ザックが「それなのに、あなたとピクニックしているから笑ったの?」と問うと、煙は「はい。娘はいっそうホテルの仕事に精をだすようになってしまいました」と答えた。
考古学を志す理由
ザックは「そうね」と歌うように呟き、再び地層に向き直った。煙がまた口を開く。「あなたはどうして考古学を?」煙の問いに、ザックは背中で答えた。「考古学はもうここにはいない人の暮らしを知れるから」。立ち上がり、崖に近付いていく。「わたしは、いない人のことをいつも考えているの」とザック。煙は目を細め、「僕もそうかもしれない」と小さな声で言った。ザックの耳にはもう何も聞こえていなかった。
泥だらけの帰還と従業員たちの反応
その日、すっかり暮れてから煙とザックはホテルに帰ってきた。ぬかるみで転んだと舌を出すザックは額や頬も泥で汚れ、煙も半身が泥だらけで、こそこそと裏口から入ってくる様子が可笑しいと、砂糖煮の娘と従業員たちは笑い転げた。
従業員用の浴室を先にザックに使わせ、地下の廊下で待つ煙を「ねえ」と砂糖煮の娘は見上げた。「あたしはママはいらないけれど、銀のパパが恋人を作ってもなんとも思わないわよ。それが、あたしの友達だったとしても。金のパパなんて大勢いるじゃない」。「彼女に失礼ですよ」と煙が窘める。
金ボタンの登場と煙の忠告
二人分のバスタオルとガウンを手に金ボタンが螺旋階段を下りてきて、「『森の貴公子』と泥まみれの姫君か」と肩をすくめた。「卒倒するご令嬢でカフェの床が埋まってしまうな」。砂糖煮の娘が「ちょっと」と金ボタンを睨みつける。「もう貴公子なんて歳じゃない」と煙がバスタオルとガウンを受け取り、ザックの分を砂糖煮の娘に渡して金ボタンを見た。「君もね。プレイボーイなんて呼ばれる歳じゃない、もうあと数年で四十だ。それに、わかっているはずだろう」



