文化人類学は、地球上に暮らす他者を「上から目線」で語ってきた過ちを省みて、他者を「独自の論理を持った対等な存在」として理解するようになった。そのため、統計やアンケート結果を分析する「鳥の目」ではなく、当事者の視点に立つ「虫の目」で調査研究を積み重ねてきた。そんな学問が文化人類学だと聞いても、ふつうは「へぇ、面白いね」で終わってしまう。
ビジネス向けに再設計された入門書
本書は、文化人類学で鍛え上げられた独創的な見方を、ビジネスパーソンが納得し、実践できる形へと再設計して提示する。従来の入門書に決定的に欠けていた、学問をどう生かすかという視点が本書を貫いている。私たちの「思考の枠」を外し、「近くのもの」をあえて「遠いもの」として見直すことこそ、変化の激しい現代のビジネスではますます重要なのだという。
機能主義とビジネス人類学の実践
どんな奇妙に思える慣習も、その社会を維持させる何らかの「機能」を果たしている。そう見抜いた二〇世紀前半の文化人類学者マリノフスキの「機能主義」を身近な社会に当てはめると、懇親会は一見無駄に思えても、日頃のストレスを和らげ、インフォーマルな情報交換の場として機能していることが見えてくる。無駄だと切り捨てることが、かえってリスクかもしれない。
グローバリゼーションの進展によって「未開」が姿を消すと、文化人類学者は現代の「理解不能な他者」を理解するため、科学者の実験室やウォール街の投資銀行、テック企業へと調査対象を広げ、ビジネス人類学を切り拓いた。その過程で、一九八〇年代にはコピー機が設計者の想定どおりには使われていない実態を明らかにし、ユーザー視点に立った製品開発の重要性を示した。また、「この地域では、この商品の売り上げが低い」という謎も、現地で人々と対話し、その暮らしを観察することで解き明かしてきた。
学説史を丁寧かつ平易にたどりながら、「結局、何の役に立つの」という問いに答える、新しく魅力的な文化人類学の入門書の登場である。(1980円)



